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星野屋上遊園地

作者: あき伽耶

冬童話2025「冒険にでかけよう」

武頼庵(藤谷K介)様個人企画「『冬の星座の物語』」

参加作品です。


挿絵(By みてみん)



「今月でこの遊園地を閉園します!」


 冬のある日の夕方のこと。星野デパートの社長さんがデパートのビルの一番上にある星野屋上遊園地にやってきて、こう宣言した。


 ジェットコースターはプンプンと怒って「まだまだオレはやれるぞ!」と息巻いた。くるくる飛行機は「仕方ないよ、昔と違ってお客さんがめっきり減っちゃったじゃないか」と残念がった。観覧車は「私らもさ、だいぶ体がガタついてきたもの。ついにその時がきたのかねえ」と涙ながらにつぶやいた。ビックリハウスは目玉をグルグルさせて「閉園だなんて! どうしようどうしよう!」とあたふたするばかりだった。


 一番小さな豆汽車のぼくはといえば、みんなの言うことを静かに聞いてた。だってぼくは子どもたちを乗せるとギイギイと音を立ててしまうから、もうずいぶん前からお休みを言い渡されて線路からも外されていたんだ。


 遊園地ができた頃、ぼくたちはキラキラに輝いていた。星野屋上遊園地の星マークを胸につけたぼくたちは、それが誇りで、毎日が楽しかった。大勢のお客さんがキラキラの笑顔になっては帰っていった。

 

 けれども今はお客さんはほとんどいないし、ぼくは体中サビだらけ、胸の星もいつのまにかなくなってしまった。もっと働きたかったと思うと悔しくて悲しくて。涙のたまった眼で、がっかりしているみんなの顔をそっと見上げた。


 すると夜空に浮かぶ星が、宝石のような光を含んで(またた)いて見えた。――それはまるでぼくたちの胸で光っていたあの星マークのようだった。


「ねえみんな、あの空の星をぼくたちの胸にもう一度つけたなら、前のようなキラキラの遊園地になれるかもしれないよ」


 胸の星の光をすっかり失っていたみんなは、ぼくの意見に大賛成してくれた。

 しかしいったい誰が空の星を? と顔を見合わせているみんなに、ぼくはきっぱりと言った。


「ぼくに行かせて! ……知らないところは少し怖いけど、でもぼくはどうしてももう一度走りたいんだ!」


「それならば」と空のことならなんでも知ってる観覧車が教えてくれた。「夜空には天の川という線路があるから、そこを走るといいさ。それに今夜はふたご座生まれの流れ星が多く降るから、きっと星を集められるだろうよ」


 ジェットコースターが線路を貸してくれて、ぼくは走り出した。はじめはぎこちなかったけれどすぐに慣れた。体が軽いからギイギイいうこともない。やっぱりぼくはまだ走れるんだ!


 ジェットコースターは速い走り方も教えてくれ、ぼくは懸命に走った。夜空に向かうあの高い線路を目指して。


「豆汽車、もっと速く車輪を回すんだ! そうだその調子だ、速いぞ!」


 ぼくは自分でもびっくりする速さで線路を()けのぼっていった。線路のてっぺんから車輪がふわりと離れたとき、くるくる飛行機が声を飛ばす。


「よし豆汽車、この風に車輪を乗せて! そうそう、そのまま全速力だ!」


 星野屋上遊園地で一番背が高い観覧車を追い越したとき、観覧車は天の川の方向を指し示してくれた。


「豆汽車、気をつけていくんだよ!」

「うん! いってきまーす!」


 どんどん小さくなっていくみんなに聞こえるように、ぼくは汽笛を元気に鳴らした。




 夜空は星の光がキラキラときらめき、夢のように美しいところだった。星の欠片(かけら)が集まってできている天の川の線路は吸いよせられるような輝きを(はな)ち、どこまでも続いていた。

 ぼくはその線路を走っていって、飛んでくる流れ星をつかまえてはそっと客車に置いた。

 ふと気づくとサビだらけだったぼくの体はすっかりきれいになっていた。天の川をあちこち走り回ったので、星の欠片(かけら)(みが)かれていたのだ。



 ***



 夜空から帰ったぼくが星を配ると、「ありがとう」とみんなはすぐに胸につけて、嬉しそうに顔をほころばせた。ぼくも自分の胸に()まった星が嬉しくて嬉しくて、ポーッと汽笛を思いきり鳴らした。


 すると驚いたことに、汽笛と同時にぼくの煙突からたくさんの星の欠片(かけら)が一気に吹きあがった。


 星の欠片はぼくたちの頭上をすっぽり(おお)ったあと、チラチラと舞い落ちて、遊園地じゅうを天の川のようにキラキラに輝かせた。


 明くる朝、星のように輝く遊園地を見てびっくりした社長さんや街の人たちがわんさか押しかけた。


 集まったお客さんを乗せて、ぼくたちは朝から晩まで大忙し。ビックリハウスも「お客さんがいっぱいだ! どうしようどうしよう!」と嬉しそうにあたふたと働いた。まばゆい星を胸につけたぼくたちは、とても誇らしかった。


 お客さんはキラキラの笑顔になって帰っていく。次の日もそのまた次の日も遊園地は大にぎわい。

 そしてとうとう社長さんが「閉園は撤回します!」と宣言したから、ぼくたちは心の底から喜びあったんだ。




 さてみなさん。

 星野屋上遊園地は、楽しくてキラキラな笑顔になれる星の遊園地です。

 あなたもぜひ遊びに来てください。

 ぼくたち従業員一同、心よりお待ちしています。





(おしまい)







お読みいただきまして、どうもありがとうございました。

もし少しでもよかったなと思われましたら、星でのご評価・応援をどうぞよろしくお願いします。


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作者は真面目から不真面目wまで様々な作品を書いていますので、もしよかったら他作品にもお立ち寄りください(^^)

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― 新着の感想 ―
∀;)とても素敵な童話作品でした!!!感動しました!!! ∀・)寂れてしまった遊園地がみせる冒険。夢と希望、そして温かさを掌編ながらもしっかりと感じました☆☆☆彡
豆汽車クン頑張りました!(*´∀`*) 何というか、キラキラした様子が目に浮かびます。 …でも老朽化した遊具はやっぱりコワイ(。>ω<。) 安心して子供遊ばせるためにも、メンテナンスだけはしっかりお願…
屋上遊園地!懐かしい! 子供の頃、家族でよく行ったデパートの屋上遊園地が大好きでした。まさにこの、「豆汽車」くんみたいな乗り物がいちばん好きで……! どうやらそこも、閉園しちゃったみたいだよ〜と、数年…
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