第98話:『燃え盛る拳』
草原に風が巻き上がる。
空は燃えるような赤に染まり、陽は地平線に沈みかけていた。
エンガとルミナ――二人の姿は、まるで炎そのもののようだった。
拳を打ち合うたびに、火花が飛び散り、服や髪を焦がす。
どちらも血を流し、傷だらけ。だが、誰一人として後ろに下がらない。
「オレは……負けられない」
エンガの声は荒く、しかし揺るがなかった。
「私だって――!」
ルミナもまた、叫び声とともに拳を突き出す。
ブーストとブーストがぶつかり、衝撃で地面がひび割れ、草が吹き飛ぶ。
その戦いは、勝敗や称号のためではない。
ただ、互いの想いをぶつけ合うための――戦いだった。
ルナは後方で立ち尽くす。
「や、やめ……」
声が喉で詰まり、言葉にならない。
本能的に、止めたくなる。
しかし、何かに阻まれたような感覚が、彼女を押し留める。
「まさか……ゼクス……んなわけないか」
ピノンはそっと呟いた。
冷静で、だがどこか胸を締め付けられるような声だった。
戦場での“最後の決戦”を目撃する者にしかわからない感覚――それを、彼は理解していた。
エンガは荒い息をつきながらも拳を振り下ろす。
ルミナも負けじと、それを受け止め、さらに反撃する。
空気が震え、衝撃波が周囲の草をなぎ倒す。
二人の間にあるのは、ただ純粋な意志のぶつかり合いだった。
「でも……お前も観ててくれよ、ゼクス……」
ピノンは小さく呟く。
「お前を倒した。奴の、最後の戦いを――」
風が強く吹き、血と汗の匂いが草原を満たす。
太陽は完全に沈む寸前。光と影が交錯する中、二人の戦いはさらに激しさを増していく。
誰も止められない――そして、誰も逃げられない。
この草原に残るのは、拳と想いだけだった。




