第97話 「ブースト × ブースト」
風が裂けた。
ルミナの足元から、青白い閃光がほとばしる。
「――ブースト!」
エンガが驚愕に目を見開く。
その魔法の詠唱、その光の軌跡――まったく同じだった。
「……お前、なんでそれを」
「当たり前でしょ。ずっと、あなたの隣で見てきたんだから」
ルミナの声は、淡く、それでいて確固たる意志を宿していた。
同じ魔法。
同じ速度。
同じ想い。
二つの閃光が草原を駆け抜け、ぶつかり合う。
――ドンッ!!
空気が弾ける。
二人の姿が一瞬で交錯し、すぐに距離を取る。
その残像の中、ピノンが呟いた。
「やば……完全に“ミラー戦”だ……」
ルナが続ける。
「お兄も気づいてる。お姉が“本気”で合わせてきてることに」
ルミナは微笑む。
「ねぇ、エンガ。私ね……ずっと追いかけてきたの」
「へ?」
「あなたが努力してた時間、私も努力してた。あなたが悔しくて歯を食いしばってた夜、私は遠くで見てた」
エンガの胸がざわめく。
かつて届かないと思っていた背中が――いま、正面に立っている。
「……だったら、もう遠慮はしねぇ」
エンガが拳を握りしめた。
「本気で来いよ、トウカ!」
「言われなくても!」
二人の足が地を蹴る。
ブーストの光が重なり、草原が波打つ。
空気が裂けるたびに、軌跡が閃光の線を描いた。
拳と拳、蹴りと蹴り――まるで鏡写しのような攻防。
「ブーストラッシュ!!」
「ブーストラッシュ!!」
同時発動。
どちらがどちらかわからないほどの連撃。
衝撃波が重なり、二人の間の地面が抉れる。
観戦していた仲間たちは、誰一人言葉を発せなかった。
ただ、息を呑んで見守っていた。
――そして。
「くっ……!」
エンガが押される。
ほんのわずか、タイミングがズレた。
その一瞬をルミナは逃さなかった。
彼女の拳が、エンガの頬をかすめる。
衝撃で草原に転がるエンガ。
「はぁ、はぁ……やっぱ、強ぇな……」
ルミナは息を整えながらも、どこか寂しそうに笑った。
「そう言うあなたもね……。でも、まだ終わらせたくないでしょ?」
エンガが立ち上がる。
「当たり前だろ。ここからだ」
彼の背中が陽光を受けて光る。
その姿に、グラウィスが低く呟いた。
「……やっぱり似てるな、あの二人」
「え?」とピノンが振り向く。
「互いに、自分を写す“鏡”なんだよ。どっちが勝っても、どっちが負けても……終わりなんかじゃねぇ」
夕陽が沈み、草原が橙に染まる。
二人の影が重なり、そして再び離れる。
「――次は本気で行くぞ、トウカ!」
「うん、待ってた!」
再び、光が弾けた。
それはもう、戦いというより――“対話”だった。
拳で、蹴りで、魔法で。
互いの全てをぶつけ合い、確かめ合う。
風が鳴り、空が焼ける。
彼らの戦いは、まだ終わらない。
そしてこの日、草原にいた誰もが知ることになる。
“エンガとルミナの戦い”――それが伝説として語り継がれる始まりだったと。




