第94話「情報量」
そして数週間後――。
激闘の果て、世界を救った男・エンガ(夏炉)は、ゲーム内で静まり返った部屋のテーブルに突っ伏していた。
ルナが湯気を立てる紅茶を手渡す。
「つまり……俺が勝たなかったら、日本が終わってたってこと?」
エンガは顔を上げずにぼそりと呟いた。
「そうだね。あの戦いでお兄が負けてたら、アメリカも中国も、きっと……」
ルナは一息ついて、いたずらっぽく笑う。
「それに私のことも、もう隠してないしね?お兄」
エンガが顔を上げる。自身の事をお兄と呼ぶのは、この世でただ一人
「お前まさか月未……?」
「正解〜!」
ルナ――いや、月未は指でピースを作った。
「飲み込み早いね、お兄!」
「いや早くねぇよ!!」
エンガは頭をがしがしとかきむしる。
「だぁーっ!情報量が多すぎて脳がパンクする!!」
そのとき、扉がノックされた。
そこにはルミナが立っていた。
静かな笑みを浮かべながら、彼の前に立つ。
「……コイツの言うとおり、もしもお前が“トウカ”なら」
エンガは立ち上がり、まっすぐに彼女を見据えた。
「オレには、やらなきゃいけないことがある」
ルミナ――トウカはゆっくりと目を閉じて、微笑んだ。
「わかってる……戦おう、夏炉」
そして、二人の間に流れる静寂。
まるで、長い夢の続きを見るかのように、風がカーテンを揺らした。
――そう。
これこそが、エンガ=新道夏炉の本当に最後の戦い。




