第89話「地鳴りが、空を割った。」
――空気が焦げる。
焦げた鉄の臭いと、燃え尽きた魔力の残滓が、灰のように舞っていた。
瓦礫の中、エンガとゼクスは、互いに距離を取っていた。
地面は赤く焼け、空気は歪む。
二人の息が、まるで蒸気のように白く散っていく。
「……もう、左腕は動かねぇか」
エンガは肩で息をしながら、赤く焼け爛れた腕を見た。
皮膚が剥がれ、血が煮立っている。それでも笑った。
「でも、まだ"右腕"は残ってる」
ゼクスの方も、膝をついていた。
全身の筋肉が裂け、背中の魔力炉が悲鳴を上げている。
それでも、彼の瞳は、戦士のままだった。
「お前の拳、悪くなかったぜ……エンガ」
「お前もな。……あんな重い空気、初めてだ」
一瞬、互いに笑った。
それはまるで、死を覚悟した者たちだけに許される微笑。
風が止み、熱が静まる。
世界が、二人のために呼吸を止めた。
エンガは膝を曲げ、地面を焦がすほどに力を込める。
ゼクスは両拳を握り、空気を収束させる。
その中心に、暴風と炎がぶつかる未来が見えた。
――その瞬間。
ピノンの声が、現実世界の通信回線を通して響く。
「日本海上で、中国軍の艦隊が……動いた。発射準備完了、間もなく――」
同時に、別の管制室ではアメリカ側の報告が重なる。
「こちらイーグルワン、アメリカ軍ミサイル発射を確認! 着弾まで300秒!」
誰もが息を呑んだ。
誰もが、これが“終わり”の始まりだと悟っていた。
――エンガとゼクスも、どこかでそれを感じ取っていた。
「外がうるさいな……世界でも終わるのか?」
「だが、今の俺たちには関係ない、そうだろ?」
二人の目が交錯する。
全てを懸けた、その一撃を迎えるために。
「それもそうか、次で終わりだ――ゼクス!」
「ああ、来い、エンガァァァッ!!」
紅蓮と嵐が交錯する直前、
空も地も、時間すらも――止まった。




