第86話「赤い波動」
「レッドブースト……!」
観客席がどよめく中、エンガの拳が赤く燃え上がった。
いや、燃えているのではない――熱している。
拳から下、肘までがまるで溶鉱炉のように赤熱し、空気が歪む。
ゼクスの目がわずかに見開かれた。
「そう使うか、その力を」
その言葉に、エンガは息を荒げながら笑う。
「ルールなんざ、ぶっ壊すためにあるんだろ!」
ブーストを酷使することで生じた摩擦熱が、エンガの腕を灼熱の炎に変えていた。
速さを極めた結果、熱を得た。
それは一つの魔法の“副産物”にして、“進化”。
「一つの魔法で、速さも、炎も! オレは――越えてやる!!」
エンガが地面を蹴る。
赤い閃光がコロシアムを駆け抜けた。
その速度は目視不能。
ゼクスが反射的に構える。
「来い、エンガ!」
「行くぞゼクス!!」
ゼクスがチャージを解放し、拳を振り上げた。
両者の拳がぶつかる――その瞬間、轟音が空を裂く。
だが。
ゼクスの拳は、熱を纏ったエンガの腕に触れた瞬間、空気が爆ぜた。
灼熱が圧を上回り、ゼクスの魔力を焼き切ったのだ。
「なッ……!!」
ゼクスの防御が崩れる。
その隙を逃さず、エンガが叫ぶ。
「これが――レッドブースト!!」
拳がゼクスの頬をとらえる。
カウンターすら許さぬ、灼熱の直撃。
ゼクスの身体が地面を滑り、衝撃波がコロシアム全体に走る。
土煙の中、立っているのは――ただ一人。
エンガだった。
右腕は焦げ、皮膚は裂け、それでも拳は握ったまま。
「……オレのブーストに、限界なんてねぇんだ」
その姿は、燃える闘志そのもの。
ゼクスを睨みつける瞳に、恐怖も、迷いもなかった。
熱がまだ彼の腕を包みながら、次の一撃を告げていた。




