第84話「震える虚空」
ゼクスの拳が、空を切った。
瞬間、虚空そのものが震えた。
見えないはずの衝撃波が、地面をえぐり、コロシアムの壁を砕きながらエンガへと襲いかかる。
「ッ――!?」
反射的にブーストを噴射し、エンガは後方に跳ぶ。だが、爆風の余波だけで頬が切れた。
鋭い痛み。
それが、ゼクスの拳の“余波”にすぎないことを悟る。
(あれをまともに食らったら……終わりだ)
ゼクスの瞳が赤く光った。
「――チャージ、解放」
その言葉と同時に、彼の全身から空気が弾け飛ぶ。
次の瞬間、ゼクスは目にも止まらぬ速度で踏み込み、衝撃波を纏った拳をエンガへと叩きつけた。
「なッ――ぐッ!」
防御の構えを取る間もなく、エンガの腹部に一撃がめり込む。
鈍い衝撃が体を貫き、内臓が軋む。視界が一瞬、白く染まった。
「まだ終わらん」
ゼクスの声とともに、二撃目、三撃目――ラッシュが始まる。
「ぐああああッ!!」
エンガの体が吹き飛び、地面を転がるたびに砂塵が舞い上がった。
ゼクスの拳は止まらない。
チャージによって蓄えられた魔力が、連打のたびに爆ぜ、衝撃波が空気を砕く。
まるで連撃の嵐――一発ごとに溜めた怒りと意志が炸裂していた。
「これが……俺の“チャージ”の本質だ!」
ゼクスの叫びが響く。
「貯めた力は、一度放てば止まらない。お前が速いなら、俺は重い! 一撃一撃が全力だ!」
エンガは歯を食いしばり、何とか膝を立てる。
呼吸が荒く、腕が痺れている。
それでも――その目だけはまだ、死んでいなかった。
(……そうか。ゼクスは隙を見せてでも“溜める”ことを恐れていない。なら俺は、“燃やす”しかない!)
拳を握り、エンガは立ち上がる。
「上等だ……ゼクス。なら、オレの全部も燃やしてやるよ!」
ブーストが再び唸りを上げる。
地面が砕け、光が立ち昇った。
熱気と風が渦巻く中、放つ者と溜める者が、再び激突しようとしていた。




