第80話「決勝───」
観客の歓声が、地響きのようにコロシアムを揺らしていた。
光のアリーナに、二つの影が立つ。
片や、不屈の挑戦者、エンガ。
片や、神の領域に足を踏み入れた存在、ゼクス。
「ついにここまで来たぞ、ゼクス!」
エンガは拳を握り、全身から闘志を放つ。
ここまで何度も倒れ、何度も立ち上がってきた。
そのすべては、この瞬間のため。
ゼクスは対面に立ち、静かに微笑んだ。
「……ああ、来ると思ったさ。お前なら必ず」
その声に、わずかな哀しみが混じる。
「なんだ…何か隠してるのか?」
エンガの眉が動くが、ゼクスはもう聞いちゃいない。
その瞳には、“人間”としての光が残りながらも、機械的な決意が身体を蝕んでいた。
――そのころ、別の場所。
ピノンは、震える声でルミナたちに現実を告げていた。
「ゼクスは……もう自分の意思で戦ってるわけじゃない。戦闘プロトコルに支配されてる。手加減は……不可能だ」
ルミナの顔から血の気が引く。
「じゃ、じゃあゼクスが勝ったら……」
「さぁな、このゲームがどうなるか、それに別のネットワークがどうなるか」
静まり返る室内。
モニターに映る二人の姿が、まるで世界の終わりを告げるようだった。
――同時刻。
グラウィスは通信端末を握りしめ、焦りを隠せずにいた。
「俺が台湾の首相と連絡を取る! ゲームサーバーが攻撃対象にされる前に!」
側にいたルナが制止する間もなく、通信が繋がる。
『こちら台湾政府──』
しかし、その声は途中で不自然に途切れた。
「……!? 何があった!?」
背後から別の声が入る。
『首相が……突然眠りに……!医師が到着──』
ノイズが走り、通信が切れた。
「やられた……!」
グラウィスの拳が机を叩く。
すぐに国連へ回線を切り替える。
「このままでは、オンラインサーバーを核攻撃することになる!停止命令を──!」
『すでに決議済みです。“削除=核攻撃”は、全会一致で承認されました』
冷たい声が返る。
「……なんて愚かなことを……!」
その裏で、ジーンは指を高速で動かしていた。
「こちらはこちらでやるしかないね!」
米軍の発射システムへと潜り込み、コードを改ざんする。
警告音が鳴り響き、画面に赤字が走る。
《発射プログラム遅延成功──有効時間、5分》
「これで……少しは稼げるはずさ。けれど――」
ジーンは唇を噛む。
「発射そのものは、止められない……」
再び視点はアリーナへ。
雷鳴のような歓声の中、二人の戦士が対峙する。
ゼクスの背後で、システムの光が脈動する。
「この戦いの先に、何があろうと……俺は戦う」
エンガは拳を構え、答えた。
「上等だ。なら俺は、あんたを超える!」
空が裂ける。
閃光と衝突の音が、世界を揺らす。
だがその裏で、誰も知らぬ『現実のカウントダウン』が、確実に進んでいた。




