第79話「静寂」
決勝戦当日。
空は、まるでこの瞬間を見届けるかのように、透き通るような青を湛えていた。
グラディエーターノヴァのメインアリーナ――“コロシアム”。
世界中のプレイヤーが見守る中、最終試合の幕が上がろうとしていた。
観客席へと続く長い階段を、グラウィス、ルナ、ヒョウザン、そしてピノンがゆっくりと登っていく。
まるで一歩一歩が、この戦いの重さを噛みしめる儀式のようだった。
「……ついに、ここまで来たか」
グラウィスが呟くと、隣でルナが小さく頷く。
「お兄……いや、エンガはきっと勝つよ。そう信じてる」
ヒョウザンは無言のまま、モニターに視線を向けていた。
その表情には、分析者としての冷静さと、友を案ずる僅かな憂いが入り混じっている。
――そのころ、コロシアム裏。
エンガはひとり、暗い通路を歩いていた。
「……ここが、終着点か」
胸の奥に宿る緊張と静かな高揚感。
何度も戦いを重ね、何度も立ち上がってきた。
けれど今回は違う。
これが、本当に最後の戦いになると――彼は感じていた。
同じく、別の通路を歩くゼクス。
その歩みは静かで、確信に満ちていた。
だが、その内側では異変が進行していた。
彼の肉体――いや、アバターの奥で蠢く“プログラムの異常”。
スパゲッティコードと化した自己修復機能が暴走を始めていたのだ。
ゼクスは左手を胸に当て、かすかに笑う。
「……まだだ。まだ、俺は“人”だ」
同時刻、アメリカ本土。
巨大なサーバールームの中で、無数のモニターがゼクスのデータを解析していた。
「ターゲット・ゼクスをサーチ中……識別コード、異常値上昇」
「ウイルスパターン一致。これ以上は制御不能です」
冷たい電子音が響く。
背後の影が、無言で指示を出す。
「……始めろ。計画を、予定通りに」
その通信を、遠く離れた中国の地下施設でも傍受していた。
「アメリカが動いたか。では、我々も“保険”をかけておこう」
薄暗い室内に並ぶ、赤く光る端末群。
誰も知らぬまま、この戦いに“第三の国の意志”が介入しようとしていた。
それぞれが、それぞれの場所で――決意を固める。
守る者、壊す者、そして貫く者。
コロシアムの中心に、静かに風が吹く。
戦いの予兆が、世界を巻き込もうとしていた。
最後の戦いが、もうすぐ始まる。




