第78話「望んだ戦い」
ブレイズの表情が、ふと真剣なものへと変わった。
これまでの軽口とは違う、覚悟を帯びた声音で彼は口を開く。
「――エンガは、きっと“望んで”戦ってる。誰かに命じられたからじゃない。自分の意思でだ。だから……それを“義務”にはしたくない」
その言葉に、場の空気が静まり返る。
モニター越しに映る仲間たちのアバターたちが、ただ無言で彼を見つめていた。
ルミナが唇を噛みしめ、震える声を絞り出す。
「それに、な……エンガには、世界の危機とか、関係なくいてほしい。今まで、十分苦しんできたから……」
その目には涙がにじんでいた。
カイが静かに腕を組み、低く呟く。
「……本人から、話は聞いた」
その声音には、重みがあった。エンガはかつて学校で、“人間関係”によって心を深く傷つけられた。裏切り、孤立、嘲笑。それらは彼の中で、いまだ消えない痛みとして残っている。
その痛みを知っているからこそ、彼らは願う。
今度こそ、エンガが“ゲーム”として戦えるように。
誰にも縛られず、ただ自分の意思で立てるように。
ルミナは月未――ゲーム内ではルナ――に視線を向ける。
「だからお願い。エンガを……何も知らせないで、戦わせてあげて」
その願いには、懇願にも似た想いがこもっていた。
月未は一瞬、言葉を失う。
だがその沈黙を破ったのは、ヒョウザン――ジーンだった。
「あなたには前にも言いましたね。今のうちにアカウントを削除してほしいと」
彼の声は冷静だが、どこか優しさを含んでいた。
「……それでも、あなたはしなかった」
月未――ルナは静かに頷いた。
「そうだね。でも、やっぱり私は……エンガの戦いを見届けたい」
その言葉に、銀二――グラウィスが一歩前に出る。
彼のアバターは黒い鎧をまとい、まるで指揮官のような風格を放っていた。
「いいだろう」
グラウィスは全員を見渡し、鋭く言葉を続けた。
「だが、君たちにも協力してもらう。ピノン――実村と同じようにな」
その瞳には決意が宿っていた。
“戦い”は、もうゲームの中だけでは終わらない。
だが――それでも、仲間たちは迷わなかった。
彼らは、ひとりの“プレイヤー”を守るために再び動き出す。
たとえそれが、世界の運命を左右する戦いであっても。




