第77話「ハグレモノ讃美歌」
銀二、月未、そしてヒョウザンは、夏炉の家へと急いでいた。
ニュースでは各国の緊張が高まり、アメリカがミサイルを発射するという噂も流れている。空気は張りつめ、通りの人々さえも不安げな表情をしていた。
「……間に合うといいけどな」
銀二がぼそりと呟くと、月未が小さく頷いた。
「お兄、今どんな気持ちなんだろう……」
そのとき、曲がり角で声が飛ぶ。
「――月未? なんでここにいるの?」
振り返ると、そこにはトウカが立っていた。息を少し切らしながらも、驚いたような顔をしている。
「お姉ちゃん……?」
月未は目を瞬かせた。
「お兄くんのところに行こうとしてて」
「……そっちの人も?」
トウカは銀二たちの顔を見回す。
だが銀二は視線を逸らし、
「まあ、ちょっとした用だ」
とはぐらかした。
国の混乱、アメリカの動向、ウイルスの拡散――軽々しく話せる内容ではなかった。
だがトウカも、すべてを知らないわけではなかった。
ゼクスから、“ウイルス”については聞かされている。
「……グラディエーターファイターズで話したい。ゲームの中で」
その言葉に、銀二は小さく頷いた。
「わかった。じゃあ、ネットカフェ行くか」
――数分後。
ネオンが光る小さなネットカフェの個室で、銀二たちはヘッドセットを装着する。
ログイン音が響き、視界が切り替わる。
そこは、戦場のようでいてどこか懐かしい、あの世界。
グラディエーターファイターズのフィールドに、仲間のアバター――ブレイズ、ミラ、カイたちが待っていた。
「おー、グラウィス!本物と会えるなんてな!」
「まさか本気で決勝まで行くとはね……エンガ、すごいわ」
ミラが微笑む。
「なぜ君たちはエンガのことを知っているんだ?」
そのとき、ブレイズがふと懐かしそうに語り出した
「そういや、お前ら知らねぇか……なんでエンガが俺たちのギルドにいたのか」
ミラとカイが顔を見合わせる。
ギャラクシールオンライン
画面の端には、【QUEST CLEAR!】の文字が瞬いていた。
「クリア者、えーと……2時間?!」
「嘘でしょ、あのクエスト、適正レベルなら10分もかからないのに」
そこにいたのが――エンガ、すなわち夏炉だった。
彼はレベル上げにも興味がなく、デイリークエストも簡単なものばかり。
戦うよりも、世界を“感じていた”。
「それでも、なんか放っとけなかった」
ブレイズが笑いながら続ける。
「だから誘ったんだ。俺たちのギルドにな」
ミラが柔らかく微笑む。
「うちのギルド、毎日ログインしなくてもいいの。ノルマもない。ただ、自分のペースで遊べばいい」
「釣りばっかしてる奴もいるしな」
カイが苦笑する。
「でも、なんか居心地いいんだ。誰も縛らねぇし、誰も強制しねぇ」
ブレイズが腕を組み、ぽつりと呟いた。
「はぐれ者の楽園――それがアウターヘブンだ。エンガも、最初からここが居場所だったのかもしれねぇ」
銀二は静かに頷いた。
仲間たちの言葉を聞きながら、胸の奥にじんと熱いものが広がる。
夏炉――いや、エンガが歩んできた道。その始まりが、ようやく繋がった気がした。




