第76話「螺旋」
闘技場に轟音が響き渡った。
風がうなり、地面が抉れる。ライガの魔法によって生まれた巨大な竜巻が、天と地を貫くように立ち昇っていた。
その中に、エンガの姿がある。
吹き飛ばされながらも、彼の表情には諦めがなかった。
「……回転の力、か」
エンガは呟き、唇の端を吊り上げた。
「なら――乗ってやるよ」
次の瞬間、エンガは地を蹴り、その場で回転を始めた。
腕を広げ、全身を軸にして、風と同じ方向へ身体を回す。
彼の魔力が風を巻き込み、竜巻と“共鳴”した。
「竜巻は回転の力なら……その回転に、乗ればいい!」
回転速度が増し、エンガの身体はまるで竜巻そのものに溶け込んでいく。
風と肉体が一体化し、暴風が赤く燃える竜巻へと変わった。
観客席から悲鳴が上がる。
実況の声すら、風にかき消されるほどの轟音。
ライガは、眉をわずかに動かした。
「……さすがに気づくか。だが――!」
彼もまた剣を構え、風を纏い始めた。
「ならば、俺も応えよう!」
ライガの身体を中心に、青白い雷光を帯びたもう一つの竜巻が巻き起こる。
空と地に二つの巨大な渦が生まれ、互いに唸りを上げながら近づいていく。
「風の支配者として――退くつもりはない!」
「上等だ!! ぶつかってやる!!」
二つの螺旋が交錯した瞬間――
――爆発。
轟音と閃光が闘技場を飲み込み、空が割れたような衝撃が走った。
観客席の魔力防壁がきしみ、砂塵が吹き荒れる。
風、雷、炎、全てが渦を巻いて弾け飛んだ。
数秒後。
静寂が戻った闘技場に、ひとりの影がゆっくりと立ち上がる。
立っていたのは――エンガだった。
息は荒い。服はボロボロ。
だが、その瞳にはまだ“火”が宿っていた。
ライガは膝をつき、空を見上げて笑う。
「……やはり、お前は……ただの挑戦者ではなかったか」
エンガは拳を握り、短く息を吐いた。
「俺は……ただの“ファイター”だ」
――こうして、第5試合。
嵐と雷がぶつかった激戦は、エンガの勝利で幕を下ろした。




