第70話「雷鳴の剣帝、その真の力」
轟音と閃光が交錯する闘技場。
観客の叫びも、実況の声も、すべてが雷と衝撃音にかき消されていく。
エンガとライガ――その戦いは、もはや“人間の戦闘”ではなかった。
エンガは息を荒げながら拳を握りしめた。
「……やっぱり、ただの雷使いじゃねぇな……」
ライガの放つ雷撃はあまりにも自然で、まるで“空”そのものが怒りをぶつけてくるようだった。
嵐の中心で、ライガは無言のまま剣を構える。剣身には青白い稲妻が脈打つように走っている。
だが次の瞬間、彼はその剣を見下ろし、静かに口を開いた。
「……そうだな、この剣は、もはや不要だ」
その言葉とともに、ライガは象徴である“雷鳴剣”を投げ捨てた。
ステージに突き刺さった刃から、雷が火花のように弾ける。
観客席がどよめき、実況が叫ぶ。
『ら、雷鳴の剣帝が……剣を捨てた!?』
ライガはゆっくりと両手を広げ、天を仰いだ。
その瞳には、戦士ではなく“支配者”の光が宿っていた。
「雷は空の一部にすぎん。だが――空そのものを掌握すれば、雷など副産物にすぎぬ」
空がうねる。
天井に張り巡らされたシステム照明がノイズを走らせ、仮想空間の“空”に黒雲が渦を巻く。
やがて空気が一変した――湿気、風圧、光、温度。
まるで現実の天候が、そのまま闘技場へ落とし込まれたようだった。
「お見せしよう……我が真の魔法を」
ライガの声は低く、しかし雷鳴よりも重く響いた。
「──明日天気になあれ」
天井を貫く閃光。
次の瞬間、闘技場全体の天候が狂い出す。
雷、暴風、豪雨、そして晴天――それらが一秒ごとに切り替わっていく。
「な、なんだこれ……!?」
エンガは目を細める。
さっきまで乾いていた床が一瞬で水たまりになり、次には灼熱の砂が舞う。
視界は歪み、足場すら安定しない。
「俺の魔法は“雷”ではない」
ライガが言う。その周囲で雷が、まるで従者のように舞っていた。
「天候そのものを支配し、戦場を作り変える。それが“明日天気になあれ”」
その姿は、まるで自然そのものの化身。
嵐がライガを包み、背後に七色の光――虹がかかる。
それは、美しくも恐ろしい“神の権能”のようだった。
エンガは唇の端を上げ、拳を構える。
「……やっぱり、お前ら上位陣は規格外だな」
足元に青い光が灯る。
「でもな、天気がどう変わろうが、やることは変わんねぇスピードブーストぶっ飛ばすだけだッ!!」
エンガが一気に踏み込む。
雷が弾け、風が渦を巻く中、彼は閃光のように迫る。
拳がうなりを上げ、ライガの胸を狙った。
「遅い」
ライガが腕を振るうと、突風が盾のように展開され、攻撃を弾き返す。
嵐が形を変え、風の壁が幾重にも重なる。
「無駄だ。この世界は、すでに私の“領域”の下にある」
雷が奔り、豪雨が叩きつけ、暴風がすべてを飲み込む。
観客は言葉を失い、実況が叫ぶ。
『こ、これはもう……魔法戦の域を超えている!!』
しかし、その嵐の中で、ひとつの光が逆らうように揺らめいた。
エンガの瞳が、嵐を裂くように輝いていた。
「なら……この空ごと、ぶち抜くまでだッ!!」
全身から音の波が奔る。
“音速拳”が炸裂し、風の壁を引き裂いた。
雷鳴と音が交錯し、世界が白く塗りつぶされる。
――光が収まったとき、ステージの中心には二人が立っていた。
どちらも膝をつかず、息を荒げ、しかし笑っていた。
ライガが静かに呟く。
「……面白い男だ、エンガ。この空を破る拳……久しく見なかった」
エンガは拳を握り直し、前を向いた。
「アンタの空、次で本当に晴らしてやる」




