第65話「姉妹の再会」
観客の歓声が遠くに響く中、
通路の奥を歩いていくルナの足取りは、どこか軽やかだった。
汗を拭いながら、笑みを浮かべる。
「──やっぱり、いたんだねぇ。お姉ちゃん」
振り向いた先に、腕を組んで立っているのはルミナだった。
凛とした瞳で妹を見つめ、ため息をつく。
「生きてたなら、手紙くらいよこしてよ。まったくもう……」
ルナは、どこか気恥ずかしそうに頬をかく。
「うん、ごめん。でもね……まさか“お兄”と会うなんて思わなかったよ」
ルミナの眉がぴくりと動いた。
“お兄”──その呼び方で、すぐに察した。
「……やっぱり気づいてたのね、エンガのこと」
「まぁ、私の仕事が仕事だし」
ルナはさらりと笑う。
「今はまだ、お兄にも正体は明かせない──もちろんそこの人にも」
彼女の視線が、通路の陰を向いた。
空気が一瞬、張り詰める。
黒いフードの男──クロウ。
彼はほんの一拍、沈黙したのち、舌打ちする。
「……チッ。バレたか」
そう呟くと、姿がノイズに包まれ、ログアウトしていった。
「……逃げたね」
声をかけたのは、背後から現れた氷のように白い髪の少女。
氷結公女ジーン。冷ややかな微笑を浮かべ、言葉を続ける。
「まったく。お相手はおバカさんだねぇ……この場所でログアウトとは、バレないとでも思ったのかね」
ルナが小さく目を細める。
「その口ぶりってことは──やっぱり“やつら”か」
ジーンは無言で頷いた。
ルミナが困惑気味に二人を見比べる。
「ちょっと、どういうこと? あの人、何者?」
ルナは一瞬だけ妹の瞳を見て、そして視線をそらした。
「……さすがに、お姉ちゃんにも話せないかな。ごめんね」
「ルナ……」
ルミナの声には、心配と苛立ちが入り混じっていた。
そんな中、ジーンが静かに一歩前に出る。
「ルナの姉上様、一応言っておきます。
今のうちに“ログアウト”──それどころか、アカウント削除をしておいたほうがいいですよ」
その言葉の意味を理解できず、ルミナは息を呑む。
だが、ルナの表情だけが静かに曇っていた。
「……やっぱり、動き出したんだね。アメリカ側が」
遠くで、まだ歓声が響いている。
何も知らない観客たちは、ただ楽しんでいるだけ。
──今はまだ、誰も知らない。
この、仮想の戦場この国の未来を決める引き金になることを。




