第64話「鎖、断ち切られて──」
爆煙が晴れる。
闘技場の中央に立つ二つの影。
エンガの蒼炎が風に揺れ、ルナの鎖が金属の雨のように地面に落ちていた。
「……ほんと、強くなったね、エンガ」
ルナの息は荒い。肩で呼吸しながらも、笑みを崩さない。
全身を這う鎖の一部は焦げ、ところどころ溶けている。
エンガも額に汗を浮かべながら答えた。
「お前だってな。あの時みたいに真正面からぶつかれるなんて思わなかったよ」
二人の距離は数メートル。
その間に、熱と殺気と、わずかな寂しさが混ざっていた。
「じゃあ、これで決めようか」
ルナが静かに手を掲げる。
その動作と同時に、地面に落ちた鎖たちが一斉に浮かび上がった。
まるで意思を持つ獣のように、エンガを囲い込む。
「これが私の全力――鎖刃の隕石!」
無数の鎖が収束し、球体の檻を作り出す。
内部で逃げ場はない。
鎖一本一本が刃のように鋭く、動くだけで切り刻まれるだろう。
「……っ!」
エンガは拳を握り、目を閉じた。
(俺は……ここで止まれねぇ。)
炎が立ち上がる。
蒼ではない、紅蓮のような光。
彼の身体を包み込み、足元を焦がしていく。
「行くぞ……全開だッ!」
「パワーブースト!!」
轟音とともに、エンガが突き上がる。
鎖が軋み、空気が震える。
紅の炎が球体の内側を焼き切り、次の瞬間――
バァァンッ!!!
光と爆風が闘技場を貫いた。
観客の歓声も、解説の声も、全てが一瞬掻き消える。
残ったのは、焦げた砂の匂いと、二人の姿だけ。
ルナの鎖は全て地に落ち、煙を上げている。
彼女は片膝をつきながら、苦笑した。
「やっぱり……君には勝てないや」
エンガが歩み寄る。
手を差し出しながら、優しく言った。
「そんなことねぇよ。お前が本気で来てくれたから、ここまで出せたんだ」
ルナはしばし、その手を見つめていた。
そして、小さく微笑む。
「……やっぱり、優しいね。お……エンガは、昔から」
その声には、ほんの僅かな震えがあった。
まるで“これが最後”を覚悟しているような。
観客席から大歓声が沸き起こる。
実況が叫ぶ。
「勝者、エンガァァァァァ!!」
眩いライトが二人を包む中、
ルナは静かに立ち上がり、囁いた。
「ありがとう……また、いつか」
その背を見送るエンガの胸に、妙な不安が残る。
(またいつか……って、なんだよ)
彼の問いに答える者はいなかった。
だが、闘技場の最上段、暗がりに潜む“影”だけが、その姿を見つめていた。
黒衣の男――クロウ。
冷たい瞳で、消えた光の粒子を追いながら呟く。
「対象、確認完了。……これで、実体の特定が可能だ」
風の音に紛れるような、氷のような声。
祭典の熱気の中、確実に“死の気配”が忍び寄っていた。




