第56話「鎖に縛られた拳」
観客席から飛び交う声援は熱狂を極めていた。だが舞台上に立つ三人の戦士には、それを聞く余裕など一切ない。
互いの足は床に縫い止められ、まるで鎖で繋がれた囚人同士の戦い。上半身だけで繰り広げられる殴り合いは、泥臭く、荒く、そして痛ましいほどだった。
「ぐっ……!」
エンガの顎をかすめた拳が火花のような痛みを走らせる。姉妹の打撃は決して重くはない。だが休むことなく繰り出される連撃は、確実に体力を削っていく。
「はぁっ……まだ、やれる!」
アルの声は震えていた。慣れぬ拳に指の関節は赤く腫れ、呼吸も乱れている。それでも退かない。
ヘナも同じだ。拳を突き出すたび、唇を噛みしめ、必死に姉と歩調を合わせる。
対するエンガも苦しい。足が使えず体重を乗せられないため、拳の威力は普段の半分以下。
「くそっ……ブーストが使えりゃ……!」
腕に無理やり力を込めても、足で支えられない衝撃は空へと散ってしまう。
拳が交差するたびに汗と唾が飛び散り、至近距離ゆえに互いの荒い息づかいがまとわりつく。観客席は固唾を飲み、誰もが『次の一撃が決着をつけるのでは』と感じていた。
「まだ……負けない!」
「私たちは……アイドルだから!」
姉妹の声が揃った瞬間、二人の拳が同時に突き出される。
迎え撃つようにエンガもまた渾身の拳を振るった。
その衝撃が舞台を震わせ、観客席にまで響くほどの音を生んだ。
だが決着はつかない。
互いの拳は、ただ相手の意志を確かめるかのようにぶつかり続ける。
泥臭く、足を縛られた戦士たちの戦いは、なおも続いていく。




