第42話「奈落の底で」
崩壊した大地の裂け目を、二人は黒い奈落へと落ちていった。
グラウィスは咄嗟に手をかざし、自身を無重力に変える。巨体がふわりと宙に浮かび、ゆっくりと沈んでいくはずの体は、逆に落下を免れた。
「……これで勝負は決まったな、エンガ!」
グラウィスが勝利を確信したように言い放つ。だが下方を見れば、エンガは加速度を増しながら真っ逆さまに落ちていた。
しかし、その顔は恐怖ではなく闘志に燃えていた。
「まだだ……!」
エンガは落下の最中、周囲を飛び交う岩の破片に目を光らせる。崩壊した大地の破片が大小さまざまに浮遊し、空気の抵抗で舞い上がっていたのだ。その一つに手を伸ばし、蹴り、また掴む。まるで足場を駆け上がるかのように、次々と破片を利用して上昇していく。
「バカな……落下を逆利用だと!?」
驚愕するグラウィスをよそに、エンガは勢いを乗せながらさらに高みへ。ついには最上部に漂う巨大な岩塊へとたどり着いた。両腕を突っ込み、ブーストで筋肉を爆発的に強化する。
「壊せないなら……押し込むまでだッ!!」
雄叫びと共に、巨岩がグラウィスの方向へと放たれる。無重力で浮いていたグラウィスは、迫りくる影に目を見開いた。
「ぐっ……!!」
巨岩の質量を受け止めるも、浮力に近い無重力の力場では支えきれない。押し戻され、浮島の外縁へと追いやられていく。
「やめろおおお!!」
その絶叫も虚しく、グラウィスの巨体は岩ごと場外へ弾き飛ばされた。
システムのアナウンスが響く。
≪勝者──エンガ≫
落下の勢いを逆転の一手に変えたその瞬間、観戦者たちは息を呑み、そして大きな歓声を上げた。




