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第38話「空に裂ける拳」

無重力に浮かぶ巨木が、迫る。


「チッ……!」


エンガは両拳を構え、真正面から迎え撃った。拳がめり込み、轟音が空を震わせる。だが──木は止まらない。


「ぐっ……! やっぱり地面がねぇと、踏ん張りが効かねぇ!」


無重力の中では、拳の力が木を押し返す前に、自分の体ごと弾かれてしまう。質量の壁が迫り、じりじりと押し潰されそうになる。その瞬間、エンガの脳裏にひらめきが走った。


(粉砕するんじゃねぇ……なら、割ればいい!)


「おおおおおッ!」


エンガは拳を押し出すのではなく、木の幹の中心に両手を当て、左右へと外へ力を振り抜いた。

──裂け目が走る。


巨木は中央から引き裂かれ、二つの塊となって左右に逸れていった。エンガの視界を開け放ち、空間に破片が舞い散る。


「木を避ける(回避)のではなく割いた(わる)か」


グラヴィスの目がわずかに見開かれる。


エンガは無重力の中で笑みを浮かべる。


「粉々にする必要なんてねぇ。道を開けりゃ、それで十分だろ!」


そのまま割れ目を蹴り台にして身体を跳ね上げる。木の破片を利用した推進──それは彼の無鉄砲さと、発想の柔軟さが噛み合った瞬間だった。


「ブーストォ!」


再び足が赤く光り、エンガは空間を疾駆する。


「おもしろい……!」


グラヴィスが低く笑い、両手を広げた。周囲の石や瓦礫が次々と浮かび上がり、重力の檻がエンガを待ち構える。


「だが、割れるものばかりとは限らんぞ?」


次なる一手を前に、エンガは拳を握り直す。


「割れなきゃ……ぶっ壊すだけだ!」


──無重力の空に、二人の闘志が火花を散らす。

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