第37話「グラヴィス戦開幕」
試合開始の合図と同時に、エンガは敵の掌に触れてしまった。
瞬間、身体がふっと軽くなる。足が地を離れ、上下の感覚すら曖昧に──
「これが、無重力……!」
彼の頭に過るのはやばいの3文字。だが次の瞬間、鋭く声を張り上げる。
「加速!」
赤い光がエンガの足元を走り抜けた。宙を漂いながらも、彼は必死に足をばたつかせる。
その姿はまるで水面を泳ぐ魚のようだが、確かな推進力を得ていた。
「ははっ!今回はゼクスに色々きいてたんでな!」
エンガの瞳が爛々と輝く。
グラディエーターファイターズ──このゲームは空気や熱まで物理演算されている。
たとえ重力が奪われても、周囲に空気がある限り、それを蹴って力に変えることができる。
「……なるほど、ブーストで足の速度を上げ、空気を“掻き”ながら移動しているのか」
グラヴィスが低く呟いた。
その余裕の声は、獲物を観察する捕食者のものだ。
「だが子供の遊びに付き合う気はないのでな」
地面に手をかざすと、一本の大木がふわりと浮かび上がる。重力から解き放たれ、質量だけを持つ巨木は、彼の指先一つで飛翔した。
「いけ…」
質量兵器と化した木が唸りを上げ、無重力空間に浮かぶエンガめがけて放たれる。
「チッ、やっぱり来るか……!」
空気を蹴る足は限界に近い。それでもエンガは口元を歪める。
「質量がデカい相手なら、工夫しねぇとどうしようもねぇ……か」
グラヴィスの瞳に冷徹な光が宿る。
「無重力は“自由”じゃない──“制御不能”だ。抗えぬまま押し潰されろ!」
試合開始直後、早くも決定的な一撃が迫る。




