第35話:「浮島決戦──重力の支配者」
「次の対戦相手は、12位《重力の魔人》グラヴィスだ」
試合前、ゼクスが無造作に告げた言葉に、エンガの心臓が跳ねた。
「重力……だと?」
ゼクスは片眉を上げる。
「触れたモノの重力を操る異能だ。拳ひとつ受ければ、重さが十倍にも百倍にもなる。お前のブーストでどうにかできるかは……正直、賭けだな」
それだけでも脅威なのに、さらに条件が加わる。
「そして今回の舞台は浮島だ。場外に落ちれば、その時点で敗北。──いわゆるスマッシュルールってやつさ」
「落ちたら負け……?」
エンガは思わず息を呑む。
これまでのように地面を叩き割ることも、体力を削り切るまで粘ることもできない。
立っているだけで島は揺れ、足を踏み外せば終わり。
「つまりは、いつも以上に冷静な立ち回りが必要になる」
ゼクスはわざと楽しそうに笑った。
「お前、猪突猛進だけじゃここで死ぬぞ」
数日後
リング──いや、浮島の舞台に足を踏み入れると、眼下に広がるのは底の見えない暗黒の空間だった。
浮島は何十枚も点在しているが、どれもせいぜい十数メートル四方。
中央の広い島を中心に、戦場は空中に散らばっていた。
すでに待ち構えていたのは、巨漢の男。
灰色のローブを纏い、無表情でこちらを見下ろす。
「……お前が、エンガか」
声は低く、重く、響くように伸びる。
その瞬間、周囲の空気がわずかに歪んだ。
「わが名は重力の支配者グラヴィス──触れたもののすべては、私の掌の上にある」
まるで宣告のように放たれた言葉と共に、試合開始の銅鑼が鳴り響いた。
エンガは奥歯を噛みしめる。
「……落ちたら終わり、か。だったら落ちなきゃいい! 上等だ、やってやるよ!」




