29話:「14位昇格──現実が刺す静かな痛み」
──ガコン。
VRゴーグルを外す音が、現実への扉を叩いた。
部屋の空気は冷たく、先ほどまで燃え上がっていた戦場の熱気など、ここにはない。
焔牙──新道 夏炉は、静かに深呼吸した。
「……ジーンに勝った。これで14位」
たった一言、自分に確認するように呟く。
(Cランクの俺が、14位……)
ゲーム内のランキング画面を見れば、その事実は確かにそこに刻まれている。
けれど、その喜びは思ったよりも胸に響かなかった。
──ピンポーン。
不意に鳴ったインターホンが、彼の思考を引き戻す。
「……誰だよ、こんな朝に……」
玄関を開けると、そこに立っていたのは──
「おはよ、夏炉くん」
少し気まずそうに笑う少女、**朝霧 灯華**だった。
「……灯華?」
「ちょっと話したいことがあって。入っていい?」
「……ああ、どうぞ」
居間に通すと、灯華の視線が部屋の端にあるVRゴーグルとモニターへ向かう。
「……あれって、フルダイブのやつ?」
「……ああ、まぁ」
「もしかして……夏炉くんって、“グラディエーターファイターズ”やってるの?」
エンガの体が、ピクリと動いた。
「……知ってるのか、そのゲーム」
「最近ちょっと話題になってたから。ランキング見たら、“エンガ”って名前があった……もしかしてって思って」
静かな沈黙が、部屋に落ちる。
灯華は、どこか真剣な顔をしていた。
「なんで……隠してたの?」
「別に、隠してたわけじゃ……」
言いかけて、やめた。
言い訳にもならない。それがわかってしまったから。
「俺はさ……“本気”でやってるんだ。遊びじゃねぇ。だから……誰にも、話す気になれなかった」
焔牙──夏炉の言葉は、苦い後味を残すような響きだった。
灯華は黙って聞いていた。
その横顔は、怒っているわけでも、呆れているわけでもなかった。ただ、どこか──寂しそうだった。
「そっか……そうなんだ」
たった一言が、妙に心に引っかかった。
(なんだよ……この感じ)
14位になったというのに、気持ちはどこか晴れなかった。
現実の空気が、妙に重たい。
そして胸の奥が、じわじわと、モヤモヤと騒がしかった。




