二
忘れもしない夏の日。エアコンをガンガン効かせ編集作業。先輩ウツバーの「フカノ」さんから連絡が来た。
フカノさんは質の高い内容と、ブランドを持った、成功者と言って差し支えない方だ。安定したスポンサーも付いていて、ウツバー活動に充実していそうで嫉妬と憧憬の対象である。
そんな彼からの連絡内容は、
「ウツバー活動のメンバーを募集しています。出演者、撮影者、編集者、その他、どの者も過去にウツバー活動をしたことに限ります。
補足、どの者も出演者になることがあります。」
という物だった。
正直、怖かった。大物の彼が小物の私に声をかけたこと。この文面の無味無臭の感じから、大勢のウツバーに同様の連絡をしているのであろうこと。そして何より一番は、今の生活が壊されてしまうこと、であった。
バイトして、お金を貯めて、撮影して、編集する。数少ない視聴者を大切にする。これ以上広がらなそうな光景と世界に鬱屈しそうだが、充実もしていた。忙しかった。だからこそ何も考えず、なんとなく生きてこられたし、時間いっぱい頑張ってる。そんな感覚を得られた。Uつべは安心できる居場所だった。
それでも、彼の誘いは魅力的だった。今の私は長所や特徴も何も無かったからだ。コンテンツのクオリティはどんどんと低下していき、チャンネルは停滞、視聴者も離れた。もう、消化済みだが、僅かなパクリ疑惑と炎上もあった。そのときの擁護派と、批判派に分かれた対立で、視聴者間はゴタゴタ。スポンサーはもってのほか。一応の広告収益は付いてるのが救いか。
私はこれ以上ないチャンスだと思った。全ての問題が解決する訳じゃない。それでも、一つでも、解決できればいいなと、フカノさんの誘いにのることにした。
自分が「ヘブン」と名乗っていること。五年程のウツバーの経験があること。望みの役割は無く、なんでもやらせていただく旨を記載したメールをフカノさん宛に送った。
きっと新たな世界を見られる。きっとこの居場所は戻ってこられない。