疑問の答え
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「父さん」
老爺と遭遇した日の夜、少年は珍しく早く帰ってきた父親に、奇妙な男と老爺の『金属』の話をした。智也の父は博識で、疑問には大抵納得のいく答えを話してくれる。だが、今日は違った。
「さあ、見間違いじゃないのか?」
父親の反応は、予期せぬ質問を受けて動揺しているかのように思えた。
台所で夕食を作っている母親に少年は同じ質問を繰り返した。しかし智也の母は父親と変わらない、あいまいな返答しかしない。
そうこうするうちに夕食ができた。普段と同じように、テーブルに並べられた食器に母親は手際よく料理を盛りつけていく。
毎日続く習慣通りに、七時に家族全員そろって夕食を食べ始めた。しかし雰囲気がいつもとは違う。父親も母親もよくしゃべり、よく笑っているが、どこか重苦しさが漂う。
(質問をした時から母さん達は変だ)
この前ある質問をした時も両親の態度はおかしくなった。だが、少年はその頃の事を覚えていない。
ぎこちない笑顔の両親を見ながら、少年は料理を口にした。
夕食が終わっても両親の態度は変わらず、居心地の悪さを感じた少年は自分の部屋に逃げた。
両親の態度から一つ疑問がわいてきた。
(父さん達はあの『金属』について知ってるんじゃないかな。でも、どうしてそれを隠すのだろう?……もう一度聞いても教えてくれそうもないな)
その時ふと、『金属』に対して抱いた既視感の原因らしきものが視界に入った。
壁際にある、図鑑や児童書、マンガや絵本といった雑多な書物が並んだ本棚。その最下段に、今はほとんど読まなくなった二冊の本がある。
(確かあの本に……)
少年は本を手に取った。その本はうっすらとほこりが積もっていた。二冊のうち一冊は絵本で、もう一冊は図鑑。叔父にもらったものだ。少年は絵本の方を開いた。
パラパラとページをめくっているうちに目的の物を発見した。
(金属製の、人に似せて作られたロボットだ)
子供達は友達の代わりとして一体の、人間に似せたロボットを受け取った――と絵本の中程に書かれている。
今度は図鑑を開いた。図鑑の題名は『ロボットの歴史』。
紀元前八世紀の叙事詩『イーリアス』の黄金の少女、十八世紀の自動人形やからくり人形、数年前に開発された二足歩行ロボット――といったものが簡単な説明と写真入りで載っている。
その中の、『腕の無い人のための義手型のロボット』の写真に、少年は目を引きつけられた。
人造の皮膚をつける事により、パッと見ただけでは義手かどうか見分けがつかない――と説明には書かれている。しかしその義手は製作途中の写真のため、肘の辺りはまだ皮膚で覆われていない。
(そうだ、これだったんだ)