夢・臭い
*
(――ここは?)
暗く、でもとても開放感があり、そして静かな場所だ。ほとんど音らしい音がしない。車のエンジン音も、話し声やざわめきも。
智也という名の少年は歩いていた。
(これは夢なのかな……?)
少年は意識がはっきりと覚醒していないように感じていた。
少年は土手らしき所を歩いているようだった。しかし足の裏からは土の感触はしていない。一歩一歩足を踏み出しているが、感覚もなかった。体を動かしている自覚もなく、自分の体を制御できていなかった。
少年は顔を上げた。星は見えず太陽も見えない、青色を少し足した、澄んだ黒い空。明け方近くなのだろうか。分からないことばかりで、少年の頭の中はこの空と反対に濁ってきた。
少年は土手から降りた。そしてどこかに向かって歩きだした――。
少年はベッドから身を起こした。
(……?……何だったかな?)
もうほとんど覚えていない。
ベッドから立ち上がる。足に軽い疲労が残っている気がした。
*
みんなは僕をともやと呼ぶ。そうだ、僕の名前はともやだ。
僕は従兄弟とよく遊ぶ。従兄弟は悠木という名前だ。この前は悠木のお父さんの工場の近くで遊んだ。悠木の家はお金持ちだ。
僕はまだ学校に行っていないからいっぱい遊べる。
*
近所の小さな書店に少年は入った。手に取ったのはマンガ雑誌、最近買い始めたものだ。少年はポケットから小銭を出してレジへと向かう。
レジには一名先客がおり、少年はその後ろに並んだ。先客は四十歳ぐらいの男性。購入しようとしている本は二冊だけだったが、店長と大声で話をしていてしばらく動きそうに無かった。
(まだかな?)
少年が声をかけようか迷っていると、ある臭いがするのに気がついた。ガソリンスタンドで嗅いだことのある臭いだった。店長と先客のいる方向から臭っているみたいだ。