67(完). ダンジョンとは
神楽の待機期間も終わったので、俺たちはダンジョン攻略へ行くことにした。
準備をして、ダンジョンの入口へ向かうと、神楽が男たちに話しかけられていた。若いイケメンの集団だった。街中で見かけたら、スルーしてしまいそうな状況だが、今ならアクションを起こせる。
「神楽、お待たせ」
「あ、宿須さん!」
神楽が俺に寄って来る。男たちは俺を睨むも、俺が何者かわかったのか、バツが悪そうに去っていく。
(変な話だな)
もしもここが若者の街なら、絶対に起こりえない現象だ。
「さっきの人たちは、知り合いなの?」
「いや、違います。なんか、パーティーのメンバーを探していたみたいです」
「なるほど。イケメンだったみたいだけど」
「そうですね」
「ちょっといいなぁ、とか思ったりするもんなの?」
「いや、全然。だって、私には宿須さんがいますから」
「そっか。そう言ってもらえると、嬉しいね」
もちろん、神楽の言葉はありがたい。しかし、冷静にならなければいけないことも理解している。彼女が一緒にいたい俺は、つまるところ、ダンジョンの俺だ。リアルではなく、ファンタジーで生きる俺に彼女は憧れている。だから、リアルの俺は、彼女の言葉を真に受けて、舞い上がってはいけない。
「どうかしたんですか?」
「ん、何で?」
「難しい顔をしているので」
「そう? まぁ、ちょっと考え事」
「ふぅん。そうですか」
作文コンクールがあってから、俺にとってのダンジョンについて考えるようになった。結論はすぐに出た。が、他に結論が無いか考え、結局最初の結論にたどり着く。
俺にとってのダンジョンは、『価値を示す場所』だった。
ダンジョンは多くの人にとって忌み嫌われる場所である。しかし、そのダンジョンがあるからこそ、俺は俺の価値を示すことができた。ダンジョンが無かったら、俺はきっと、社会の汚泥をすすったまま生きるしかなかっただろう。でも、ダンジョンがあるからこそ、神楽に認められ、世の中の多くの人に認められることができた。
最初、俺にとってのダンジョンは、上司や世の人に対して積年の恨みをぶつける場所だった。しかし、いつしかファンタジーを楽しむ場所になって、今は自分の価値を示す場所になっている。もしかしたら、攻略を続けるうちに、またべつの場所になっているかもしれない。でも、その変化を恐れてはいない。その変化を楽しめるのが、ダンジョンの良いところ……なはず。
「よし!」と気合を入れる。「それじゃあ、今日も行きますか!」
「はい!」
俺は神楽とともに、ダンジョンへ――ファンタジーの世界へ飛び込んだ!
突然ですが、このまま続けてもエタりそうなので、こちらで完結とさせていただきます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
また別の作品もお読みいただけると幸いです。




