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腐ったミカンの下剋上  作者: 三口 三大
第4話 私とダンジョン
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66. 授賞式②

 授賞式が始まった。最優秀賞と優秀賞の人は発表があったので、俺は受賞者の発表を聞く。緊張しながらも、しっかりとした口調で話す子供たちを見て、思った。


(絶対に冒険者以外の道に進んだ方がいいだろ)


 若くして文才を認められ、堂々と人前で話せる彼ら彼女らは、冒険者ではなく、別の道に進んだ方が、世のため人のためになる気がした。


(まぁ、心配しなくても大丈夫か)


 彼ら彼女らは賢い。だから、きっとどこかで、冒険者に対する認識が変わり、まともな大人になると思う。むしろ心配なのは、トップランカー賞を受賞した子供たちだ。座っている佇まいから、幼いながらも、尖った感じを受ける。もしも冒険者になれなかったら、変な思想に目覚め、声がでかいSNSの住人になりそうだ。


 そして俺は、そんな彼ら彼女らに、賞状と賞品を授与する必要があった。その時が来て、緊張しながら、務めを果たす。神楽と何回も練習したから、滞りなく、授与できた。


 式はとくにトラブルもなく終わった。


「ご苦労様です! 良かったですよ」と神楽。


「ありがとう。神楽のおかげだ」


 会場を後にしようとしたら、声を掛けられる。


「あの、すみません!」


 小学校高学年の部で最優秀賞を受賞した男の子だった。


「俺?」


「はい。ぼくと写真を撮ってくれませんか?」


「べつにいいけど、でも、どうして俺と?」


「最近、ダンジョン関連のニュースで名前をよく目にするので。すごい人なんですよね!?」


「はい。すごい人です!」と俺より先に神楽が答えた。


 ニュースとか見てないから初めて知ったのだが、結構、名前が出ているのか。関係者はまだしも、一般人にまで、自分の知らないところで有名になっているのは、奇妙な感覚だし、ちょっと怖くもある。


 少年の写真撮影に応じたら、次々と受賞者が現れて、一緒に写真を撮ることになった。自分に対し、尊敬のまなざしを向ける子供を見て、多少の戸惑いを覚える。数か月前までは、子供の悪い見本でしかなかったのに、人生とはわからないものだ。


 最後の一人は、中学校の部のトップランカー賞を受賞した少女――初瀬さんだった。写真を撮り終えたところで、彼女は言う。


「兄がお世話になっております」


「……やはり、あの初瀬さんの妹なんだ」


「はい!」


 彼女は元気に答える。賞状を渡した時に、初瀬兄と雰囲気が似ていると思ったから、それほど驚きはない。


「お兄さんは元気なの?」


「はい。今は地方のダンジョンに行ってます。志を同じにする仲間を集めるために」


「へぇ」


 道理で、最近見ないわけだ。


「兄は、よく宿須さんの話をしています。そして、宿須さんにふさわしいパーティーを作るつもりです。もちろん、そのパーティーには私も含まれています。なので、今度はダンジョンで会いましょう」


 彼女はその言葉を残し、去っていった。不穏なことを言っているように聞こえたのは、気のせいだろうか。


「私以外の人ともパーティーを組む予定何ですか?」と神楽。


「いや、そのつもりはない。だから、さっきの言葉に、ある種の危機感を覚えているよ」


 面倒なことにならなければいいが……。


(まぁ、それはいずれ考えよう)


 今は疲れたのでさっさと帰りたい。


 神楽も今日は仕事が無いらしいので、一緒に定食屋でご飯を食べることにした。疲れているのか、神楽の口数が少なかった。神楽との沈黙は苦にならないので、黙々と食べていたら、神楽が不意に言った。


「宿須さんにとって、ダンジョンって何ですか?」


「どうしたの? 急に」


「今日の作文コンクールを見て、私ならどんな作文を書くか考えていたんです。だから、宿須さんはどうなのかなって」


「なるほど」


 考えてみる。


 答えはすぐに出た。


 俺にとってのダンジョンは――。

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