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腐ったミカンの下剋上  作者: 三口 三大
第4話 私とダンジョン
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65. 授賞式①

 神楽から送られてきた作文は全部で15点あった。ついでに、作文コンクールの概要も送られてきたので、確認する。『私とダンジョン』というテーマで、ダンジョンや冒険者について思ったことを書くらしい。対象は全国の小中学生で、小学校低学年の部、小学校高学年の部、中学校の部の3部門に分かれている。受賞者は各部門で、最優秀賞が1人、優秀賞が2人、ギルド賞が1人、トップランカー賞が1人ずつ選ばれるみたいだ。


(小学生に、ダンジョンとかわかるのか?)


 と思いつつ、送られてきた作品を読んでみる。


 結論から言うと、ほとんどつまらなかった。理由は、大人にとって都合の良い作文が選ばれているからだ。多くの作文で、『ダンジョンは悪いものだから、冒険者になって、一つでも多くのダンジョンを攻略し、世界を救いたい』的なことが書いてあった。あとはそれをうまく表現できたものに賞が与えられているように感じる。


(まぁ、でも、そうなってしまうよな)


 もしも作文コンクールで受賞を目指している小学生がいたら、とことん大人に媚びろと言いたくなる。


 ただ、トップランカー賞だけは、他の賞に比べ、明らかに毛色が違った。渋沢さんが選んでいるからか、どの作文も、ダンジョンを肯定的に捉え、ダンジョン攻略に生きる喜びを見出そうとしていた。とくに中学生の部の作文は、ダンジョンを『ネバーランド』と捉え、社会に息苦しさを感じている人間でも本来の姿を取り戻すことができる素敵な場所と表現されていた。


(本当に中学生が書いたのか?)


 名前を確認し、俺は納得してしまう。『初瀬愛理』。もしもあの初瀬の親族なんだとしたら、この思考に至るのも納得できる。


(なんか、行きたくなくなってきたな……)


 しかし、渋沢さんからの頼みであるから断るわけにはいかない。覚悟を決め、その日を待った。


 そして当日。ギルドへ向かうため、スーツを着て、電車に乗る。昼の時間帯であったから、そこまで人は多くないものの、スーツというだけで、サラリーマン時代のことを思い出し、萎えてしまう。毎日、こんなものを着て、出社していたことが奇跡に思える。


「大丈夫ですか? ちょっと顔が暗いですけど」


「ん? あぁ、大丈夫。ありがとう」


 隣に座る神楽が心配してくれた。今はべつの奇跡とともに生きていることを実感する。


 ギルドに到着すると、会場へ案内される。すでに人がいて、ざわついていた。


「おはようございます、宿須さん」


 いつも以上にきっちりした美津目さんが俺たちの前に現れる。


「おはようございます」


「まだ表彰式まで時間がありますし、良かったら、関係者の方を紹介しましょうか?」


「……はい」


 面倒くさいが、断れる雰囲気でもないので、美津目さんに任せる。


 最初に紹介されたのは、国家迷宮対策委員長、あらため、ギルド長の鳥谷さんだった。歳を感じるグレーのオールバックだったが、顔つきは若々しく、目からは意思の強さを感じた。


「噂はかねがね聞いているよ。ぜひ、これからもギルドの一員として頑張ってくれ!」


「はい。どうも」


 握手を求められたので、応じる。毎日筋トレをしているらしく、力強い握手だった。


 それから、ギルドの偉い人やメディアの関係者にも挨拶した。


 だいたい15分くらいの挨拶回りだったが、久しぶりに堅苦しい挨拶や名刺交換をしたので、どっと疲れてしまった。部屋の隅で休んでいると、神楽が水のペットボトルを持ってきてくれた。


「お疲れ様です。これ、どうぞ」


「ありがとう」


「やっぱり、宿須さんってすごいんですね」


「え、何で?」


「だって、あれだけ偉い人が、皆、宿須さんのことを知っていたんですから」


「……そうだな」


「宿須さんとパーティーを組めて、何だか誇らしいです」


「そうか、それは良かった」


 神楽の言う通り、会った人は、全員俺のことを知っているようだった。正直、肩書とか興味無いので、彼らが俺を知っていることはどうでも良かった。ただ、神楽がポジティブに捉えているようなので、悪い気はしない。


「そろそろ、式が始まるみたいですね」


 人が1か所に集まり始めている。


「みたいだな。それじゃあ、行ってくるよ」


 俺は重い腰を上げ、自分の席へ向かった。

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