64. 意外な依頼
美津目さんから指定されたギルドの会議室に行くと、笑顔の美津目さんが俺を迎えた。
「おはようございます!」
「……おはようございます」
「元気そうで良かったです!」
「ええ、まぁ」
ニコニコ笑っている美津目さんの対面に俺が座り、神楽は俺の隣に座った。美津目さんの笑顔が怖い。
「それで、今日はどのような用件ですか?」
「実はそれについてなのですが」
「私から説明するわ」
ガチャッと扉が開く。現れたのは、渋沢さんだった。
「あ、お久しぶりです」
「こんにちわ。宿須君」
渋沢さんは相変わらず、ミステリアスな雰囲気を振りまいている。
突然のランク3の出現に、神楽は緊張しているようだ。
「それで、渋沢さんが俺に何の用ですか?」
「実は、1週間後に開かれる作文コンクールの授賞式に私の代わりに出席して欲しいの」
「作文コンクール?」
そんなものがあるなんて、知らなかった。というか、何でそんなものに俺が参加しないといけいないのか。
「急にごめんね。私に他の用事ができたので、代役を探していたんだけど、宿須君なら、いろいろと見直すのに、丁度いい機会になるんじゃないかなと思ったから、宿須君に頼むことにしたの」
「見直す」
「そう。宿須君が上位ランカーになって、どれくらいの時間が経ったかな?」
「2か月くらいですかね」
「あれ? そうだっけ? 半年くらいやっているかと思った」
ずいぶんと適当だな、おい。
「まぁ、とにかく、作文コンクールを通して、客観的に『冒険者』というものがどう思われているかを見ることによって、いろいろと発見できると思うの」
「……そういうもんなんですかね。というか、そもそも、作文コンクールって何ですか?」
「ある種のイメージ戦略ですよ」と美津目さん。「小中学生を対象に開催しているもので、小さいころから冒険者というものに興味を持ってもらい、冒険者に対する理解を深めてもらおうというのが狙いです」
「なるほど。まぁ、言われてみたら、小学生の頃から、何かいろいろな作文を欠かされた気がします。税金とか」
「そうですね。これもそういったコンクールの一つだと思っていただければいいと思います」
「なるほど。というか、もしかして、審査とかもしなきゃいけない感じですか?」
「いや、審査に関しては、私の方でやっているから大丈夫」と渋沢さんはドヤ顔で語る。「受賞者とかも発表されているから、宿須君にやって欲しいのは、当日参加することだけ」
「あ、そうなんですか」
なら、楽そうな仕事だ。
「ただ、当日までに作文を読んでいて欲しいの」
「わかりました」
「それじゃあ、よろしくね」
「はい」
こうして、渋沢さんの代わりに作文コンクールに出席するという謎の仕事ができた。