57. vs オークリーダー②
先に攻撃を仕掛けたのは、オークリーダーだ。石の斧を振って、神楽さんの頭を狙う。神楽さんは深く踏み込んで、斧をかわす。が、彼女が攻撃を繰り出そうとするよりも先に、オークリーダーの次の攻撃が来る。何とか避けるも、再び次の攻撃が来る。
(このままじゃ、神楽さんがやばい!)
神楽さんを助けたい。が、彼女の頑張りを応援することにしたから、今は彼女を信じるしかない。
神楽さんは、いったん、オークリーダーと距離をとる。オークリーダーも無理に追おうとはしない。石の斧を構え、神楽さんを見据える。
(神楽さんは、どうやってあいつを攻略するつもりだ?)
オークリーダーは攻撃が速い。だから、やつの間合いに入っても、怒涛の攻撃をくらうことになる。俺だったら、遠距離から魔法で攻撃し、相手に隙ができたところでぶん殴るが、魔法攻撃を持たない彼女にはそれができない。あとは、剣で攻撃をいなすのも一つの手ではあると思うが、彼女にそれができるかはわからない。
(大丈夫だろうか?)
俺が不安に思っていると、神楽さんは動いた。オークリーダーに突っ込んでいく。そして、オークリーダーの攻撃をかわすと、次の攻撃が来る前に、さらに距離を詰め、オークリーダーに肩から体をぶつけた。
「グォッ!?」
倒れるほどではないが、バランスを崩す程度の強さ。オークリーダーが踏ん張った隙を見逃さず、神楽さんはオークリーダーの左足を刺した。
「グゥア!」
オークリーダーは空いている左手で掌底を放ち、神楽さんを突き飛ばす。彼女は地面を転がるも、すぐに起き上がって、剣を構える。オークリーダーは刺された左足を抑え、憤怒の表情で彼女をにらみつけた。
神楽さんは休む間もなく、オークリーダーに突っ込む。オークリーダーは斧を振る。彼女は攻撃をよけ、まずは体をぶつける。ぐらついたところで、左足に再び剣を刺した。
「オオッ!」
オークリーダーは、右の膝蹴りを放つ。彼女は体でその攻撃を受けた。オークリーダーが左手で彼女を捕まえようとする。が、彼女は腕を使って、それをいなしながら、体で押し込む。オークリーダーは踏みとどまって、押し返した。その反発する力を使って、彼女はオークリーダーから離れつつ、反転して、オークリーダーのわき腹に浅く剣を刺し、バックステップで距離を取り、剣を構えた。
(なるほどな)
あれが神楽さんの戦術らしい。まずは体をぶつけてから、剣で攻撃する。多分、最初から剣で攻撃するよりも意外性があるから、オークリーダーの意表を突くことができる。また、わざと相手に密着することで、相手の攻撃を制限しているように見える。あの距離なら、近すぎて、斧による攻撃が当たらない。
ただ、戦術と武器の相性が悪いと思う。彼女が持っているのは、1メートル弱の長剣だ・しかし、振るためのスペースを自分で潰しているため、勢いが乗った攻撃ができない。だから、刺突がメイン攻撃になるが、無駄にリーチが長いので、小回りが利かない。足ばかり攻撃しているが、ぶつかったときの体勢的に、足が一番狙いやすいんだと思う。
(それにしても、見ていてひやひやするやり方だな)
怪我しそうで怖い。これまではうまくやっているが、次からはオークリーダーも対策をしてくるだろう。そのとき、彼女はどう対応するのか。彼女が一介の冒険者なら、興味深く観察しているところだが、彼女には多少なりとも思うところがある。だから、無茶なことはしないで欲しい。しかし、彼女の成長も考えると、無事を祈るしかない。
(やれやれ、俺がこんなにも人の心配するようになるとはな)
しみじみ思っている暇なんてない。
神楽さんが突っ込む。オークリーダーは、猫じゃらしでも振るみたいに、石の斧をぶんぶん振って、近づけないようにする。が、神楽さんは止まらずに突っ込んだ。そして――石の斧の柄に頭突きをかまして、弾いた。
(嘘だろ!?)
俺は自分の目を疑う。オークリーダーも目を見開いた。だが、オークリーダーは驚いている場合ではない。彼女が石の斧を弾いたことで、大きく体が開き、隙だらけになっていた。彼女はその隙を逃さず、オークリーダーの胸に剣を突き刺し、そのまま押し倒した。馬乗りになると、剣を何度も刺す。惨たらしい光景である。しかし、ファンタジーなこの世界では、モンスターから血が飛び散ることはなく、オークリーダーの体は黒い霧となって消えた。
「アアアァァ」
主を失ったことで、オークたちはその場に跪き、戦意を失った。
神楽さんに目を戻すと、彼女は膝をついたまま、倒れそうになっていた。俺は跳躍の魔法で駆け付け、倒れそうになっていた彼女を抱きかかえる。彼女は、頭から血を流し、意識が朦朧としているように見えた。
「宿須さんがいっぱいいます」
「どこの地獄ですか、そこは」
俺は急いで、ポーションを取り出し、彼女に飲ませる。
彼女はポーションを飲み終えると、弱弱しく笑った。
「へへっ、やりましたよ。宿須さん」
「いや、まぁ、お見事だけれども、あんな無茶なやり方をしなくても」
「宿須さんが言っていたじゃないですか。ポーションを飲めば何とかなるって。だから、多少の無茶は大丈夫かなって。それに、オークたちと戦っている中で、何となく自分のやりやすいスタイルみたいなものが見つかったんで、試したくなりました」
「とはいえ、限度があると思うんですが……」
「宿須さん、宿須さん。私、ちゃんとオークリーダーを倒しましたよ。だから、約束」
「約束? あぁ、はい」
神楽さんとタメ口で接する件のことだろう。そんなことをしている場合ではないと思うが、彼女は物欲しそうに俺を見ている。だから、彼女の頑張りに応えるためにも、約束を果たそうと思う。
「まぁ、いろいろ思うところはあるけど、よくやったよ、神楽。見事だった」
神楽は嬉しそうに目を細めて、「えへへ」と笑った。




