56. vs オークリーダー①
跳躍魔法で高く跳び上がった俺は、群れの端にいた一団の中に着地し、炎魔法で爆発を引き起こした。炎に包まれた彼らは、一瞬で霧となる。
「グォ!?」
驚いて、どよめくオーク。慌てて立ち上がろうとするも、俺は杖でぶん殴り、炎で焼き払い、神楽さんが走るための道を作る。
振り返ると、神楽さんが俺が作った道に駆け込んでくる。しかし、それを阻むように、戦意を得たオークたちが彼女の両脇から手を伸ばした。掴まりそうになる。が、彼女は低い重心と細かいステップで、それらの手を避けた。また、あえてオークに体を当て、オークの体勢を崩す。さらに崩れたオークの体を押し込んで、そのオークの後ろにいたオークたちにも混乱をもたらした。
相手を翻弄する俊敏な動きと、マッチョにぶつかってもぶれない体幹の強さ。なるほど。これが『バスケをやっていたらか大丈夫』の真意か。もちろん、それだけが彼女の動きの秘密ではないだろう。彼女はゾーンに入っているように見えた。だから、その力を十二分に発揮できている。そのきっかけが俺なんだとしたら、俺も頑張らないわけにはいかない。
俺は向き直ると、火力マシマシでオークたちを焼き払い、壇までの道を開けた。
後ろから気配を感じ、俺は脇にそれる。神楽さんが駆け抜けた。彼女は集中している。俺には目もくれず、オークリーダーを目指した。
(それでいい、そのまま行っちゃえ!)
神楽さんを追いかける変態めいたオークは俺が全て倒す!
そして、神楽さんは壇の上に立ち、オークリーダーと対峙した。そこでようやく剣を抜く。オークリーダーは動じていなかった。足元にあった石の斧を拾うと、マントを脱ぎ捨て、「オォォォォォォ!」と吠えた。ビリビリと空気が震える。オークたちがビビって後ずさる。神楽さんは――大丈夫そうだ。口元に笑みがある。この状況で笑えるのは、強者の証だ。
俺は観客にでもなったつもりで、神楽さんの雄姿を見るつもりだった。しかし、オークたちが壇に上がって、神楽さんに襲い掛かろうとする。オークリーダーに止める感じは無い。一対一の勝負にこだわるタイプのモンスターではないようだ。だから俺も、空気の読めない観客を退けるために、働かざるを得なかった。神楽さんに近づくオークに跳び蹴りを放ち、杖でぶん殴って、魔法で燃やした。
神楽さんに視線を戻す。彼女は剣を構えた。しかし、その構え方が、さっきまでのものと違っていた。腰を落とし、重心を低く保つ。その姿は、テニスプレーヤーのようだった。もしかしたら、先ほどの突破の中で、新しいスタイルを見つけたのかもしれない。
そして――「オゥ!」とオークリーダーが吠えたことをきっかけに、2人は駆け出して、戦いが始まった。




