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腐ったミカンの下剋上  作者: 三口 三大
第3話 可愛い女の子とダンジョン攻略というファンタジー
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55. 彼女の挑戦

 オークを倒しながら進んでいくと、森の最深部と思しき場所に出る。俺たちは茂みに隠れて、様子を伺った。


 そこは森の開けた場所になっていて、中央に木製の壇みたいなものがあった。そこにマントを羽織ったオークが鎮座している。また、壇を取り囲むように多くのオークが膝をつき、拝んでいた。


「あれは何をしているんでしょうか?」と神楽さん。


「あの中心にいるオークを、自分たちの王として讃えているんじゃないですかね。レポートによると、人型のモンスターは人間と同じような行動をとると言われています」


「なるほど。それじゃあ、あのオークが『オークリーダー』ですか?」


「はい。そうだと思います」


「へぇ」


 神楽さんは興味深そうにオークリーダーを見据えた。


(さて、どうしたものかな)


 まず、炎魔法で雑魚を焼き払う。次に、壇に火をつけ、オークリーダー火だるまに変える。これで、このダンジョンの攻略は終了だ。


「あの、宿須さん」


「はい。何ですか?」


「あのオークリーダーは私にやらせてください」


 神楽さんを一瞥する。彼女の目から強い意思を感じた。彼女は強敵を前にして、燃えているようだ。その心意気は嬉しい。ただ、今回は敵が悪い。相手は腐ってもヌシ。ほぼ初心者が簡単に勝てる相手ではない。それに、ヌシに至る前に、オークの群れを突破する必要がある。若い女の子がオーク群れに突っ込んで、何も起きないはずがなく……。


「駄目、でしょうか?」


 神楽さんは寂しそうに目を伏せる。その顔はずるい。俺が悪いみたいじゃん。それに、悲しそうな顔は、彼女に似合わない。


「……駄目、ではないのですが、ただ心配していることがあります」


「何ですか?」


「神楽さんも強くなっているとはいえ、一応あいつはヌシ。多分、神楽さんよりも強いんじゃないかなって思います。そして、あそこに行くまでにオークの群れを突破する必要がありますが、それができるのかって」


「なるほど。確かに、あいつは私より強いかもしれません。でも、だからこそ、挑戦したいんです。そういう逆境を乗り越えることで、冒険者として成長できるんじゃないかなって思います」


「まぁ、一理ありますね」


「あと、行くまでにオークの群れを突破する件ですが、こちらも大丈夫です。私、バスケをしていたんで!」


「そうか、バスケをしていたから、大丈夫か! とはなりませんよ」


「まぁまぁ、見ればわかりますよ」と神楽さんは不敵に笑う。何かあそこを突破できる算段があるようだ。


「それに」と彼女は続ける。「私には宿須さんがいる。宿須さんがいるからこそ、私は挑戦できる」


 神楽さんはまっすぐな目で俺を見つめる。その目もずるいと思った。そこには俺に対する疑いが無く、彼女の言葉に偽りを感じない。ここで彼女を応援できないなら、逆に俺が人間的に成長できなくなりそうだ。


「……わかりました。そんな風に言われたら、神楽さんの頑張りを応援せざるを得ませんね」


「ありがとうございます!」


 とはいえ、不安は残る。神楽さんには、無事にこのダンジョンを攻略してほしい。だからそのために、俺ができることはないか。もちろん、俺がヌシをぼこぼこにして、止めを神楽さんに任せるやり方はある。しかしそれは、彼女の望むところではないだろう。もっとべつのやり方で彼女をサポートできないか。彼女が十二分に実力を発揮できるようなやり方。


 そのとき、精霊のダンジョンの姿が過る。彼女は、願い事で冒険者のモチベーションを上げようとしていた。単純だが、実力以上の力を引き出すのには、効果的なやり方かもしれない。


「神楽さん」


「何ですか?」


「俺は神楽さんの頑張りを応援したい。だから、もしもあいつを倒せたら、何か神楽さんのお願いを、1つだけききたいと思います。何かありますか?」


「え、いいんですか!?」


「はい。もちろん、できること、できないことはありますが」


「それじゃあ、あの!」と食い気味に言いかけて、思い直したように口を閉ざす。


「どうかしましたか?」


「いえ、何でもないです。それより、私の願いなんですけど、もしもあいつを倒したら、その、私のことを『神楽』って、呼んでくれませんか? そして、親しい人と話すときみたいに接して欲しいです! あ、でも、これは2つになってしまいますね」


「ようはタメ口で話してほしいってことですよね? だったら、1つだけと思いますよ」


「ありがとうございます!」


「でも、そんなんで良いんですか? もっと、無茶なことを言ってもいいんですよ?」


「ありがとうございます。でも、今はそれだけで十分です。もしもここで大きな願い事をしてしまったら、私はそれに満足して、成長するのを止めちゃうと思います。だから、今は、宿須さんとより親しくなれるだけで、十分なんです」と言って、神楽さんは微笑む。


 自分の成長のために欲望を抑えるとか、めちゃくちゃストイックな人だと思う。でも、そんな彼女だからこそ、今までの人生で多くの成功体験を得ることができたんだと思うし、応援したいと思う。


「わかりました。なら、あいつを倒せたら、その願いを叶えましょう」


「お願いします!」


 俺はオークリーダーとその前に鎮座するオークの群れに視線を戻す。神楽さんが頑張ろうとしている。だから、前に進むための道は俺が作る。


「神楽さん。雑魚は俺に任せてください」


「はい。お願いします」


「覚悟はいいですか?」


「はい。宿須さんとここに来た時から、覚悟はできています!」


「よし、なら行きますか!」

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