53. パーティー
褒めるようになってから、神楽さんのパフォーマンスは目に見えて良くなった。とくに精神的な部分での成長が目覚ましく、動きに迷いがない。だから、モンスターと対峙しても、躊躇いなく倒せる。学校で剣術を学んだらしいが、その成果を発揮できていた。ただ、粗削りなところもあるので、そこについては今後の課題だ。
(まぁ、偉そうに指導できる立場にはないんだけど)
彼女が望んでいるので、やるしかない。正直、俺も感覚でやっているから、うまく教えられる気はしないが。
(というか、倒しすぎじゃね?)
神楽さんが頑張りすぎて、俺が倒すモンスターがいない。ぼんやり眺めていると、先に全部倒されちゃうので、俺も加勢し、一緒になってモンスターを倒した。
そして、夕方になる。
見上げると、空は橙色に染まり、闇が近づいていた。
(今日もここまでか)
草原タイプのダンジョンはとにかく広いので、ヌシを探すのも大変だ。
「神楽さん、そろそろ――」と言いかけ、言葉を飲み込む。神楽さんがポーションの小瓶を豪快に飲んでいた。ポーションを飲み干すと、彼女は爽やかな笑みを浮かべる。
「宿須さん。ダンジョン攻略はこれからですよね」
「……いいんですか?」
「はい! さっさと攻略しちゃいましょう!」
神楽さんが問題ないなら、その好意に甘えて、ダンジョン攻略を続けようと思う。
(でも、どうしようかな)
1人だったら、『跳竜の靴』でダンジョンの端から端まで走り回り、ヌシを探すのだが、神楽さんが一緒だと、彼女を置いていくことになるので、その方法は使えない。それに、やり方が脳筋すぎるから、彼女にダサいと思われてしまうのではないかと不安になる。自分は他人からの評価を気にするような人間ではないと思っていたが、神楽さんは別のようだ。
(こんなとき、他のパーティーではどんな風に対応しているんだろう)
あんまり交流していないから、よくわからない。ただでさえ、知らない人と話すのが苦手なのに、集団で固まっているから、なおさら話しかけづらい。
(ん? 待てよ)
そのとき、俺は閃く。
神楽さんに目を向けると、彼女は不思議そうに首をひねった。彼女がいるからこそ、できる名案が浮かんだ。
「……神楽さん。やっぱり一度帰りましょう」
「え、どうしてですか? 私は元気ですよ!」
「いや、実は神楽さんしかできないことをお願いしたくて」
「私にしかできないことですか?」
「はい。それは――」
☆☆☆
――翌朝。広場で豚汁とおにぎりを食べていたら、「おはようございます!」と神楽さんが元気に現れた。
「はい。おはようございます」
「宿須さん! 例のもの、手に入れましたよ」
「マジ?」
「はい! 最新のやつです!」
神楽さんから1枚の紙を受け取る。それは今回のダンジョンの地図だった。地図は、冒険者の情報をもとにギルドの職員が作成する。毎日更新されていくのだが、最新版の地図は、お昼頃にならないと配布されないため、朝からダンジョンに行きたい俺のような人間が最新版の地図を手に入れるためには、ギルド職員にお願いするしかない。ただ、俺はそのお願いが面倒なので、今回は神楽さんに任せた。そして彼女は、コミュニケーション能力の高さを発揮し、見事、最新版の地図を手に入れてくれた。
「まだ清書していないから、ラフな感じになっているみたいです」
確かにもらった地図には、何となくの地形しか描いてなかった。ただ、メモ書きなんかもあるし、ダンジョンの全容を把握するには、十分すぎる情報だった。
「この赤いメモ書きは?」
メモ書きには赤と黒の2種類があった。
「私が昨日、他のパーティーから聞いた情報です」
「ありがとうございます!」
神楽さんにはもう1つ頼んでいたことがある。それは、他のパーティーの様子を探ることだ。こちらに関しても、彼女は見事に仕事をしてくれたようだ。
「いやぁ、神楽さんがいてくれて、本当に良かったです。マジで神楽さんには感謝が尽きません。神楽さんと組んで良かったと心の底から思えます」
「本当ですか? なら、とても嬉しいです。私の方こそ、組んでいただき、感謝で胸がいっぱいです!」
神楽さんは満面の笑みを浮かべる。彼女には本当に感謝している。パーティーを組む利点は、彼女がいなかったら、気づけなかっただろう。
地図を眺めていて、気になるところがあった。俺たちがまだ行っていなかった北の森に、オークの目撃情報がある。
(もしかして、今回のヌシは『オークリーダー』か?)
オークがいる場合、『オークリーダー』と呼ばれるヌシが出現しがちだ。
ギルドの職員も同じ予想をしているらしく、『オークリーダー?』とのメモ書きがある。
「……行ってみる価値はありそうだな」
「私はいつでも行けます!」
「よし。なら、行きますか! 今日で、このダンジョンを攻略しちゃいましょう」
「はい! 頑張ります!」