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腐ったミカンの下剋上  作者: 三口 三大
第3話 可愛い女の子とダンジョン攻略というファンタジー
51/67

51. 兄

 まさか、こんなところに地雷が眠っているとはな。急に空気が重くなった気がする。とりあえず、俺は謝罪することにした。


「……なんか、すみません」


「あ、気にしないでください。私が勝手に兄のことを思い出しただけなんで」


 神楽さんは遠い目でキャンプファイヤーの炎を見つめる。


「兄は私の憧れの人でした。兄は運動も勉強もできて、いつもみんなの中心にいました。私がバスケを始めたのも兄の影響なんです。兄がいつも楽しそうにバスケをしていたから、私も一緒にバスケをしたくなって。そして、私が試合で活躍すると、兄がとても喜んでくれたので、私はそれをモチベーションに頑張れました」


「へぇ、良いお兄さんですね」


「はい。でも、そんな兄は、車道に飛び出した子供を助けようとして、それで、車に轢かれてしまいました。あの日のことは今でも覚えています。ちょうど大学の合格発表の日だったから、兄に合格を伝えようとしたら、病院のベッドで寝ているんですもん。多分、あの日ほど、テンションの起伏が激しい日は、今後の人生でもないでしょうね」


 神楽さんは冗談っぽく笑うが、本当は笑えない状況だったんだと思う。俺は、そういった場面に遭遇したことがないから、こんなとき、どんな言葉をかけるべきかわからない。


「兄を失ってからは、正直、何もする気が起きませんでした。兄は私の憧れで、目標でもありましたから。だから、今日、宿須さんを見て、兄のことを思い出し、懐かしくなりました」


「……俺のどの辺がお兄さんに似ているんですか?」


 話を聞く限り、神楽さんのお兄さんと似ているとは思えない。彼はきっとイケメンで、俺が教室の端っこで寝たふりをしているとき、教室の中心にいるような存在だ。そんな真逆の2人にどんな共通点が――。


「良い意味で傍若無人と言いますか、デリカシーがないと言いますか。そうはならないでしょ、ってことを当たり前のように言ってくるところですかね」


 ――ポジティブな理由ではなかった。


「……すみません」


「いや、良い意味ですよ! 何と言うか、枠にとらわれていない感じが、私には格好よく見えるんです。それでいて、たまに思い出したように優しくなるから、そういうところも兄に似てます!」


「ありがとうございます?」


 普段は人の発言を疑ってばかりの俺だが、ここは素直に受け取っておこう。


「だから、宿須さんには感謝しているんです。冒険者になりたいと思っただけではなく、兄のことも思い出せたんで」


「……でも、思い出すと辛いんですよね?」


「はい。ただ、いつもよりポジティブな感じです!」


「なら、良いですけど」


「私が剣士を選んだのも兄の影響なんです。兄だったら、絶対に『剣士』を選ぶだろうなと思って」


 神楽さんは嬉々とした表情で語る。先ほどまでのほの暗さは消えていた。元気になったようで何より。


「お兄さんのこと、今でも好きなんですね」


「はい!」


 神楽さんは満面の笑みで答えた。見ているこちらまで明るくなりそうな笑顔だ。


 そこで俺は気づく。


(神楽さんの願いって、もしかして、兄を生き返らせることなのか?)


 神楽さんのお兄さんに対する思いを聞いていたら、そんな気がしてきた。


(でも、死者の復活とかできるのかな?)


 ダンジョンの精霊は、難易度Sのダンジョンをクリアしても、ダンジョン関係の願い事しか叶えてくれなかった。だから、もしもその願いを叶えたいなら、彼女は難易度がSよりも高い、超高難易度のダンジョンをクリアする必要がある。それはきっと茨の道に違いない。


(超高難易度のダンジョンか……)


 どんなダンジョンなんだろう。すげぇ気になる。今となっては、軽井沢ダンジョンですら物足りなかったので、俺自身、超高難易度のダンジョンに挑戦したい。となると、神楽さんと目標は一緒だ。


「……神楽さん」


「はい?」


「お互い頑張りましょうね。そして、すげぇ剣士になった姿をお兄さんに見せてあげましょう」


「え? あ、はい! 頑張ります!」





☆☆☆




 ――翌朝。広場で神楽さんと合流し、ダンジョンに向かう。


 草を分けて、ダンジョンに入る。今日も快晴で、緑の大地が広がっている。ダンジョンじゃなかったら、観光地になっていそうな景観だ。


 歩いていると、早速モンスターが出現した。ツノウサギだ。1体しかいないから、朝の準備運動には丁度いい相手だ。


「それじゃあ、神楽さん。行ってみますか」


「はい」


 神楽さんは前に進み出たが、踵を返して、戻ってきた。


「あの」と神楽さんは遠慮がちに言う。手をもじもじさせ、何か困っているように見える。


「どうかしたんですか?」


「昨日、宿須さんと『きっかけ』の話をしたじゃないですか」


「はい」


「それで、私の『きっかけ』になりそうなことについて考えてみたいんですけど、1個だけ思いつくものがありました」


「何ですか?」


 神楽さんが顔を上げる。心なしか顔が赤い。そして、どこか気恥ずかしそうな表情で彼女は言った。


「もしも、私があのモンスターを倒したら、私のこと、いっぱい褒めてくれませんか?」

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