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腐ったミカンの下剋上  作者: 三口 三大
第3話 可愛い女の子とダンジョン攻略というファンタジー
50/67

50. きっかけ

 可愛い女の子と2人きりで、キャンプファイヤーを眺めながら、カレーを食べる。


 この状況、ファンタジーすぎる。


 少し前の俺に言ったら、夢みたいなこと言ってるんじゃねぇぞ、クソ野郎。って、言われるに違いない。あ、でも、そんな心の余裕はないか。


「おいしいですね」


 突然声を掛けられ、驚きつつも、平静を装って答える。


「そうですね」


「さっき、このカレーを作っている人と少しだけ話したんですけど、結構有名なカレー店で修業を積んだらしいですよ」


「へぇ」


 見知らぬ人とそんな話ができるとは、さすがと言わざるを得ない。


(ってか、何を話せばいいんだ?)


 若い女の子なんて、俺にとってはファンタジーの住人だから、何の話をすればいいかわからない。この間は、自己紹介やダンジョン攻略の話で時間を消費したが、今日も同じ話をするわけにはいかない。となると、話すネタがない。


(サソソオの話でもすればいいのか?)


 そんなことを考えていると、神楽さんが言った。


「今日はありがとうございました。いろいろと勉強になりました」


「こちらこそ、ありがとうございます」


「私は今回、宿須さんと一緒にこのダンジョンへ来て良かったです。自分のやりたいことがはっきりしたので。私は、宿須さんみたいな冒険者になりたい」


「俺を目標にするのはやめた方がいいですよ」


「なぜですか?」


「目標にするほど立派な人間じゃないんで」


「そんなことないと思いますよ。まぁ、正直、まだ人となりみたいなところはわからないんですが、あの戦い方、うまく言えないんですけど、めちゃくちゃアクロバティックなあの感じは、私が憧れるには十分すぎます」


「……ありがとうございます」


 褒められて悪い気はしない。自画自賛になってしまうが、俺もあの戦い方はすごいと思う。常人ができることではない。


「宿須さんって、最初からあんな風にできたんですか?」


「いや、違います」


「じゃあ、どうやって?」


「どうやってと言われると難しいですね。自然とあれができていたので」


「いいなぁ」と神楽さんは頬を膨らます。


「あ、でも、あれができるようになった『きっかけ』みたいなものはあります」


「何ですか?」


 神楽さんを一瞥する。彼女に俺の狂気を話していいものか迷う。


(まぁ、大丈夫か)


 俺がポーションを渡した時、笑うような人だ。少なくとも、茶化したりはしないだろう。


「最初に遭遇したモンスターがゴブリンだったんですけど、そいつが前の会社の上司に見えたんです。その瞬間、力が湧いてきて、俺はゴブリンを倒すことができた。それで何体か倒していくうちに気づいたんです。俺の中にある『狂気』を。俺は武器を持つと、人が変わり、モンスターに嫌いな奴を重ねることで、無限のパワーを得ることができる。そして、それが今の俺の強さにつながっています」


「……なるほど。殺したいほど、嫌いなんですか、その上司さんは?」


「はい。そもそも、俺が冒険者になったきっかけは、その上司のパワハラですし。パワハラで追い込まれて、自殺するつもりでダンジョンに入りました」


「そう、だったんですね。すみません、変なことを聞いてしまって」


「べつに謝るようなことじゃありませんよ。それに、上司とかもうどうでもいいんで。あんなゴミ屑にビビっていた自分が情けないくらいです」


「今もモンスターに上司さんを重ねているんですか?」


「いや、重ねていませんよ。ある人に、今のことを話したら、言われたんです。もったいないことをしているって。ダンジョンとはファンタジーな場所だから、そこにリアルを持ち込んだら、ファンタジーが楽しめないって。それを聞いて、確かにと思い、それからは嫌いな奴を重ねなくとも、戦えるようになりました」


「へぇ。重ねずとも、同じくらい戦えているってことですか?」


「はい。俺には冒険者としてやっているだけの自信があったんで。だから、そういう意味での『きっかけ』が、神楽さんにもあるといいんですけど。つまり、冒険者としての自信がつくような出来事があれば、神楽さんも一気に伸びると思うんですよね。何かありませんか? そういうきっかけになりそうなこと。俺の場合は、モンスターが嫌いな奴に見えたことなんですが」


「え、あ、うーん。何かありますかね」


「あると思いますよ。一緒に考えてみましょう」


 神楽さんは陽の人間だ。そんな人が、俺のように負のパワーで覚醒するとは思えない。


(クラブミュージックでも流すか?)


 いや、そんな単純なものではないか。


 そのとき、「ふふっ」と笑い声が聞こえた。見ると、彼女は俺を見て、微笑んでいた。


 俺の視線に気づき、「あ、ごめんなさい」と言う。


「いや、べつに良いんですけど。なんか、すげー変な顔で悩んでいました?」


「違います。なんか、兄みたいだなーって思って」


「兄? お兄さんがいるんですか」


「はい。いました」


「いました?」


「……兄は2年前に死んじゃいました」

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