49. ポーション
ツノウサギを倒した後も、神楽さんとのダンジョン攻略は続いた。草原の先に森があって、その中でモンスターと戦う。
ツノウサギを倒したことで、精神的に吹っ切れたのか、彼女は可愛い見た目のモンスターも攻撃できるようにはなった。しかし、まだ動きはどこかぎこちない。随所に身体能力の高さを見せていたが、まだ迷いがあるようだった。
(どうしたものかな)
神楽さんの頑張りを眺めながら、彼女のポテンシャルを引き出す術を考える。
「お疲れ」とモンスターを倒したばかりの神楽さんに声をかける。
「ありがとうございます。あ、その傷――」
見ると、右手の甲に傷があった。今の戦いで、神楽さんを庇う瞬間があって、そのときにできた傷のようだ。
(俺もまだまだだな)
そこまで痛くないということは、大きなダメージにはなっていないということだ。しかし、神楽さんは深刻な顔でふためく。
「すみません、私のせいで」
「大丈夫ですよ。こんな傷、ポーションを飲めば治ります」
俺はポーションを取り出して、飲んだ。
「そういえば、神楽さんはお腹空きましたか?」
「あまり空いていません。でも、ここまでずっと動いてきたし、そろそろ休憩でも――」
「その必要はありません」
「え」
俺は彼女にポーションを渡す。
「ポーションを飲んでおけば何とかなります。怪我したら、ポーションを飲む。腹が減ったらポーションを飲む。疲れたらポーションを飲む。ポーションはこのダンジョンの万能薬ですよ。ほら」と俺は右手を見せる。先ほどの傷は塞がっていた。「ポーションを飲めば、傷もすぐに治るんですよ」
「なるほど」と答え、神楽さんは俺をじっと見つめる。
「どうかしましたか?」
「あの、一応、休学中とはいえ、私は女子大生なんです」
「そうですね。それがどうかしたんですか?」
「……いえ、何でもありません」と言って、彼女はポーションを飲んだ。その顔はどこか楽しそうだ。
(何を言いたかったんだ?)
考えてみる。もしかして、もう少し気を遣ってほしいということだろうか。確かにその辺の配慮が欠けていた気はする。このままでは、自分のやり方を一方的に押し付けるクソ上司と同じになってしまう。
(それは避けたいな)
あんな奴と一緒になりたくない。
「すみません、やっぱり休憩しましょうか」
「いえ、その必要はありません。ポーションを飲んだら元気が出てきました。私はまだ頑張れます!」
「でも」
「いいから、行きますよ!」
神楽さんに背中を押される。
(まぁ、神楽さんがそれでいいなら、いいか)
あんまりしつこすぎても嫌われる。だから俺は、神楽さんの意見を尊重し、攻略を続けることにした。
☆☆☆
――夕方になった。
ダンジョン内の時間はリアルの時間と連動しているらしく、空が橙色に染まり、闇が迫っていた。
(今日はここまでか)
俺が一人なら、このままポーションを飲んで、夜通し探索を続けるが、神楽さんはそうもいかないだろう。ポーションを飲んでいるとはいえ、顔に疲れが見える。
「今日はここまでにして、残りは明日にしましょうか」
「……わかりました」
俺がダンジョンから出ると、辺りが騒がしくなった。
「宿須さんが戻ってきたぞ」
「今回のダンジョンは難易度が高いのか」
「やべぇぞ」
「や、宿須さん!」とギルドの職員が慌てて駆け寄ってくる。「どうかしましたか? なぜ、出てきたんですか?」
「出てきちゃダメなんですか?」
「いや、ほら、いつも攻略が終わるまで出てこないので」
「まぁ、たまには切り上げたい日もありますよ」
「なるほど……。ちなみに今回のダンジョンの難易度について、我々はDに相当するのではないかと考えているのですが、宿須さんはどう思われますか?」
「私もそれくらいだと思います」
「そうですか。それが確認できて良かったです。それでは、明日もよろしくお願いしますね」
「はい」
ギルドの職員が去ると、神楽さんが申し訳なさそうに言った。
「すみません、私のせいで」
「べつに神楽さんのせいじゃないですよ。それより野営地に行きましょうか」
「はい」
野営地へ移動した。今回は小規模なので、広場のキャンプファイヤーも小さく、キッチンカーも1台しかない。
「それじゃあ、また明日。時間とかはあとで連絡しますね」
男女で寝るコンテナが違うので、俺はその場で別れようとした。
が、神楽さんが俺の袖をつかむ。
そして、言った。
「待ってください。一緒にご飯を食べませんか?」




