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腐ったミカンの下剋上  作者: 三口 三大
第3話 可愛い女の子とダンジョン攻略というファンタジー
48/67

48. 冒険者になるためには

「私が止めを刺すんですか?」


「そうです。神楽さんが止めを刺すんです。というか、実習とかでモンスターを倒さなかったんですか?」


「実習の時は、スライムとかドロゴーレムが相手だったので」


「なるほど。そいつらなら、ビジュアル的に倒しやすいですね。でも、これから冒険者としてやっていきたいなら、どんなモンスターでも倒せるようになる必要があります」


 神楽さんはぐっと唇を結ぶ。俺の言いたいことは理解しているが、心の整理がつかず、苦悩しているように見えた。


 足元のツノウサギを見る。見た目は可愛いので、ためらってしまうのも頷ける。しかしこいつは、ただのモンスター。倒したところで、罪の意識を覚える前に消えるから、そこまで重く考える必要はない。


(まぁ、でも、神楽さんの反応が普通なんだろうな)


 神楽さんに視線を戻す。まだ悩んでいる彼女を見て、酷な選択を迫っているような気がしてきた。このままでは、彼女だけではなく、ツノウサギも苦しめるだけなので、さっさと楽にしてあげようと思った。


 俺が口を開きかけたとき、神楽さんが顔を上げる。


「あの、1つだけ確認させてください」


「何ですか?」


「その子に止めを刺したら、私は宿須さんみたいな冒険者になれますか?」


「……俺みたいになれるかはともかく、冒険者にはなれると思います」


「わかりました。さっき、宿須さんが戦う姿を見て、私はめちゃくちゃ興奮しました。そして、宿須さんみたいな冒険者になりたいと思いました。だから、頑張ってこの子に止めを刺します」


「……頑張ってください」


 神楽さんはツノウサギのそばに立って、大きく深呼吸してから、剣を振り上げた。ただ、目を強くつむっていたから、俺は思わず止めてしまう。


「ちょっと待ってください」


「え、あ、何ですか」


「ちゃんとツノウサギを見てください。モンスターを攻撃するときは、例え相手が動いていなかったとしても、目を離しちゃダメです」


「でも」と彼女は言いよどむ。倒す瞬間は見たく無いようだ。しかし冒険者になりたいなら、攻撃するときは、モンスターの動きを観察する癖は身につけておくべきだと思う。


 だから俺はツノウサギから足を放し、神楽さんのそばに立った。


「宿須さん?」


「一回、地面に刺してもらってもいいですか?」


「え、あ、はい」


 神楽さんは地面に剣を刺す。


「それじゃあ、そのまま、刃を下にした状態で剣の柄を握ってもらってもいいですか?」


「はい」


 神楽さんが柄を握ると、俺は自分の手を神楽さんの手に重ねた。


「ちょ、宿須さん!?」


「――もしも、モンスターを倒すことに罪の意識を覚えるのであれば、俺も一緒にその罪を背負います。だから、攻撃するときは、ちゃんとモンスターを見ましょう」


「え、あ、はい」


 神楽さんと一緒に剣を引き抜き、ツノウサギの首に剣先を向ける。


「いきますよ。ちゃんと見てくださいね」


「は、はい!」


 俺は神楽さんとともに、ツノウサギに剣を刺した。


 ツノウサギはビクンと震え、黒い霧となって消えた。


 霧を見つめる神楽さんに、俺は言う。


「もしも、神楽さんが倒したツノウサギが、ペットとかだったら、この場に死体が残って、恨めしそうに神楽さんのことを見ていたでしょう。でも、ここはダンジョンで、やつはモンスター。倒したら、黒い霧となって消えるので、そこまで気負う必要は無いですよ」


「わかりました。ありがとうございます。あの、質問してもいいですか?」


「何ですか?」


「どうして、その、罪を背負ってくれたんですか?」


「……神楽さんは冒険者になりたいんですよね?」


「はい」


「なので、神楽さんが冒険者になれるように、力を貸したいと思いまして」


「……なるほど」と言って、彼女は吹き出す。


 先ほどまで暗い顔をしていたから、明るくなったのは良いことだと思うが、どこに笑う要素があった?


 不思議に思っていると、神楽さんは「すみません、急に」と言って、俺を見返す。


 その目には迷いが無くて、真っすぐだった。


「ありがとうございます、宿須さん。宿須さんに出会えて良かった」

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