表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腐ったミカンの下剋上  作者: 三口 三大
第3話 可愛い女の子とダンジョン攻略というファンタジー
47/67

47. 彼女の実力

 これが陽キャってやつか。神楽さんのキラキラした眼差しで、溶けるところだった。


 しかし俺は理解している。他人の誉め言葉を信用してはいけないことを。ここで気を良くしたら、後々、痛い目に遭う。面倒ごとを押し付けられたり、そんなつもりじゃなかったと言われたりする。だから、話半分で聞くのが正解だ。


 それでも、悪い気はしなかったので、「ありがとうございます」と感謝を述べた。


「私も宿須さんみたいになれますかね?」


「なれると思いますよ」


「やる気が出てきました!」


 彼女のポジティブさが羨ましい。俺も彼女くらいポジティブだったら、違った人生もあっただろう。


(とはいえ、今の人生も後悔していないけどね)


 冒険者という天職を見つけたからこその余裕だ。


「宿須さん?」


「何でもないです。それじゃあ、行きますか」


「はい!」


 神楽さんを連れて、移動する。草原を歩いていると、ツノウサギが現れた。体長が1メートルくらいある、耳の代わりに2本の角が生え、壊死した皮膚みたいな紫色のモンスターだ。


「ジュィィィィィ!」


 ツノウサギは毛を逆立てて、威嚇する。


「神楽さん、任せました」


「え、あ、はい!」


 神楽さんは剣を抜き、緊張した面持ちで構える。


「ジュィ!」


 ツノウサギは角を突き出して、飛びかかってきた。神楽さんはツノウサギの攻撃を避け、剣を振るう。が、ツノウサギはひらりとかわした。数ステップで態勢を整え、再び飛び掛かる。彼女はその攻撃も避け、剣を振るった。が、ツノウサギもその攻撃を避ける。対峙するツノウサギと神楽さん。ツノウサギは戦略を考えているように見えた。そして素早い動きで、神楽さんの周りを回り始める。神楽さんは常に正対しようとするが、ツノウサギの速すぎる動きに翻弄され、足がもつれて、しりもちをついてしまう。


「ジュィ!」


 それを狙っていたと言わんばかりに、ツノウサギが神楽さんに襲い掛かる。このままでは彼女に角が刺さってしまう。だから俺は、『跳躍の魔法』を発動し、ツノウサギとの間合いを詰めた。


「ジュジュ!」


 ギョッとするツノウサギの横っ腹に杖を蹴って、吹き飛ばした。


 地面を転がるツノウサギ。何とか体勢を整えて、俺と向き合うも、その顔は苦痛で歪んでいた。人間なら「肋骨が何本かいかれた」と言いそうだ。


「す、すみません」と神楽さんが立ち上がる。


「大丈夫。それより、ちゃんと狙わないと、攻撃は当たりませんよ」


「は、はい」


 神楽さんは立ち上がって、剣を構えた。が、苦悩に満ちた顔で、剣を下す。


「す、すみません。できません」


「どうして?」


「その、小学生の頃、学校でウサギを飼っていまして。そのときのことを思い出してしまいまして」


「……なるほど」


 モンスターが愛玩動物に見えてしまう気持ちは理解できる。慈愛に満ちているような人間には、モンスターと言えど、倒してしまうことに抵抗感があるのだろう。モンスターに嫌いな奴を重ね、積極的に殴っていた俺には理解できないが。


「神楽さんは、冒険者になって、叶えたい願いがあるんですよね?」


「は、はい」


「なら、克服しなきゃですね。そういうの」


「え」


 俺は『跳躍の魔法』で地面を蹴ると、ツノウサギとの距離を詰め、その腹を蹴り上げた。さらに杖を振り下ろして、地面に叩きつける。


「ジュ、ジュィ……」


 動かなくなったが、霧にならないということは、まだ倒せていないということ。だから俺は、ツノウサギを踏みつけて、逃げられないようにした。


 そして、神楽さんに目を向ける。


 唖然とする彼女に、俺は言った。


「止めは神楽さんが刺してください」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ