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腐ったミカンの下剋上  作者: 三口 三大
第3話 可愛い女の子とダンジョン攻略というファンタジー
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45. 戦場ヶ原ダンジョン

 神楽さんとのダンジョン攻略が実現したのは、彼女と約束してから1週間後のことだった。駅近のダンジョンを願ったが、残念ながら、栃木県の日光市にある戦場ヶ原に出現した。


 トップランカーになると、バスが利用できるので、バスで現地に向かうことにした。もちろん、神楽さんも一緒だ。彼女はランクがまだないので、本当はバスを利用できないのだが、俺の特権で何とかしてもらった。


 ギルドで合流し、俺たちはバスに乗り込む。バスはトップランカーだけではなく、ランクが100以内の冒険者も利用できるため、他の冒険者もいた。だから俺は、できるだけバスを使わないようにしている。俺が乗ると、騒がしくなるからだ。


 実際、俺が乗った瞬間、車内がざわついた。


「宿須さんだ」


「これで安心だな」


「くそっ、またすぐに終わるじゃん」


 俺はそれらの言葉が聞こえないふりをして、適当な座席に座る。そのまま座席に荷物を置こうとしたら、神楽さんが隣に座ろうとしたので、荷物を抱える。べつの座席に座ったらいいのに、とは思うが、わざわざ言ったりはしない。


「注目されているんですね」と神楽さん。


「あんまり嬉しくないですね」と答える。


 注目されることに慣れていないから、振舞い方がわからない。


 バスが発車すると、俺はすぐに目をつむった。車内で話しかけられることを想定し、睡眠時間を削っておいた。そのおかげで、到着まで誰とも話さずに済んだ。


「つきましたよ」と神楽さんにゆすられて目覚める。


「ん。ありがとうございます」


 欠伸を噛み殺しながら、バスを降り、今回のダンジョンの入口へ向かう。戦場ヶ原の一角に、背の高い草の壁ができていた。その草をかき分けていくと、ダンジョンに行けるらしい。自衛隊がその壁を囲むように警戒している。


 神楽さんは緊張した面持ちで、草の壁を眺めた。


「大丈夫そうですか?」


「は、はい」


「それじゃあ、受付に行きますか」


「はい」


 受付に行くと、顔見知りになったギルドの職員が、俺の顔を見ただけで、書類を並べた。


「今日もよろしくお願いします!」


「はい。あ、すみません、彼女にも同じものを」


「え?」とギルドの職員は、神楽さんを認める。「女の子をダンジョンに連れ込むんですか?」


「俺がそんなことをする人間に見えますか? 彼女は一応、養成学校を卒業する予定の冒険者で、今回は彼女とパーティーを組むことになったんですよ」


「あ、そうでしたか。それじゃあ、対応を進めたいので、こちらにきてもらってもいいですか?」


「はい」


 神楽さんがギルド職員から説明を受けながら、書類の必要事項を埋めていく。


 俺が書類を返そうとしたら、ギルド職員が追加で書類を渡してきた。


「すみません。こちらにもサインをお願いします」


「これは?」


「美津目さんは、まだ仮の状態みたいなので、同行する宿須さんが、責任をもって、彼女と行動する旨が書かれている書類です」


「……なるほど」


 サインして、書類を返すと、ギルド職員はニヤニヤしながら声を潜める。


「しかし宿須さんもそういうのに興味があるんですね」


「そういうのとは?」


「女の子ですよ」


「べつにそういうのじゃないんですか」


「へぇ」と言うものの、顔はにやついたままだった。ここがダンジョンならぶん殴っているところだ。


 神楽さんの提出が終わってから、アイテム車両へ移動し、必要な装備をそろえる。俺は『黒魔導士の黒衣』を羽織って、『黒魔導士の帽子』を被るだけだから、すぐに終わったが、神楽さんは着替えたいとのことだったので、彼女の準備を待った。


 そして、「お待たせしました」と帰ってきた彼女は、剣士の恰好をしていた。競馬のジョッキーが着ているような服の上に胸甲だけ装着し、ブーツと手袋を装備していた。鋼の剣を腰に佩いている。


「剣士なんですね」


「はい。宿須さんは、黒魔導士ですか?」


「服装はそうですね。ただ、実際は少し違います」


「……どういうことですか?」


「まぁ、入ればわかりますよ。それじゃあ、行きますか」


「あ、あの! 杖は?」


「それもわかります」


 不思議がる彼女を連れて、ダンジョンの入口前まで移動する。ダンジョンの入口付近にいたギルドの職員が俺に気づく。


「今日は来ないんじゃないかと心配していましたよ」と彼は苦笑する。「ん? そちらの女性は……もしかして、連れ込む気ですか?」


「そんなわけないじゃないですか」と俺は呆れる。「彼女の恰好を見てくださいよ」


 これだから男ってやつは。すぐに邪なことを考える。


「あぁ、冒険者でしたか。すみません、意外だったので」


 というか、彼女ですか? みたいな勘違いならわかるが、連れ込むってどういう勘違いだよ。ギルドの職員は、俺のことをどんなイメージで見ているのだろうか。


「まぁ、それはいいんですけど、今回のダンジョンはどんな感じですか?」


「はい。詳しいところまでは見れていないのですが、どうやら草原タイプのダンジョンみたいです」


「なるほど。時間が掛かりそうですね」


「宿須さんなら大丈夫でしょう」


「そうですね」


「それじゃあ、お気をつけて」


「はい」


 俺は神楽さんを手招く。


「覚悟はできましたか?」


「はい」と答える彼女の顔は、強張ったままだった。


「そんなに不安にならなくても大丈夫ですよ」とギルドの職員が言う。「あなたには宿須さんがいるので」


「……はい」


 ギルドの職員が良いことを言ったが、なおも彼女の緊張は解けない。もしかしたら、俺のことが信用できていないのかもしれない。


(まぁ、それも仕方ないか)


 この世界の俺は、ダンジョンのアイテムみたいに、ただのポンコツだから。でもだからこそ、さっさとダンジョンに入って、俺の本当の姿を見せてあげたいとも思う。ダンジョンの俺なら、彼女の不安を除く自信がある。


「行きますよ」と言って、俺は草をかき分けた。

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