44. わかったこと
「宿須さんから連絡してくるなんて珍しいですね」
「ええ、まぁ」と俺は答える。「ちょっとお聞きしたいことがありまして」
ギルドのエントランス。俺の前には、美津目さんが座っていた。
「聞きたいこと? 何ですか?」
「神楽さんのことです。一緒にダンジョンへ行く約束はしましたが、彼女の人となりはちゃんと知っておきたいと思いまして。美津目さんから見た彼女ってどんな人ですか?」
「神楽と直接話せばいいんじゃないですか」
「周りからどういう評価を受けているのかも知りたいので」
「なるほど」と言って、美津目さんは思案顔になる。「そうですねぇ。一言で言うなら、神楽は、『神に愛されている子』だと思います。あの子って、姉の私が言うのもあれですけど、めちゃくちゃ可愛いじゃないですか。それでいて、勉強も運動もできるので、神様に愛されているとしか思えない。正直、姉の私も嫉妬するレベルですよ。でも、気の利く良い子だから、憎めない」
「へぇ。あれだけ可愛いのに、運動と勉強もできるのはズルいですね」
「本当よね」と言って、美津目さんはさらに詳しく話してくれた。
美津目さんによると、神楽さんは、高校時代にバスケで全国大会に出場した経験があり、難関私立と呼ばれる大学を一般入試で合格したらしい。話を聞いているだけで、彼女の超人っぷりがわかる。
(たまにいるんだよな、そういう人)
そして、そういう人に限って、心に余裕があったりするから、良い人だったりする。実際、彼女と話していて、嫌な感じはしなかった。
しかし、話を聞けば聞くほど、疑問は大きくなる。充実した人生を送っていそうなのに、彼女は何を願うのだろう。わざわざ危険を冒さずとも、たいていの願いは叶ってしまいそうだが……。
「美津目さんは、神楽さんがどうして冒険者を志しているのか、ご存じなんですか?」
「それが、実はちゃんとわかっていません」
「え、そうなんですか?」
「はい。神楽は、『ダンジョンに興味がある』としか言わないので」
「なるほど」
「でも、冒険者になりたい理由は他にあると思うんですよね」
「例えば?」
「……願い事を叶えたい、とかですかね」
これが女の勘ってやつか。俺は驚きのあまり、声を上げそうになった。しかし平静を装って、美津目さんとの会話を続ける。
「願い事? 神楽さんには、叶えたい願い事があるんですか?」
「心当たりはあります。が、それについては、ちょっと私の口からは言えません」
「……わかりました。ちなみになんですけど、神楽さんが、願い事を叶えたいことを理由に、冒険者を志しているのではないかと思う根拠ってあるんですか?」
「冒険者養成学校へ行く前に、よく聞かれたからですかね」
「へぇ。ダンジョンに行ったら、願い事が叶うんですか?」
「ただの都市伝説ですよ。ネットに転がっていそうな。少なくとも、現場からそういった類の話を聞いたことはありません」
「なるほど。でも、神楽さんはその都市伝説を信じているってわけですね」
「多分」
「そんな都市伝説を信じたい状況だったんですかね」
美津目さんは、イエスともノーとも答えず、口を閉ざした。
神楽さんに何かがあったみたいだが、この調子だと、神楽さんに直接聞く以外に彼女の願いを知る方法は無さそうだ。
(まぁ、神楽さんのことが少しわかったから、それで良しとするか)
話を聞く限り、俺の敵になることは無さそうなので、一日くらいなら一緒に行動できそうだ。