31. 幸運の跳竜
俺は嫌な予感がして、初瀬さんに目配せする。初瀬さんもいろいろと察し、その場から離れようとした。が、昨日情報交換を行った冒険者に気づかれ、「おーい、君たち!」と声を掛けられてしまう。ここで無視したら、心証が悪くなるだろうから、俺たちは渋々、杭打たちに合流する。
「杭打さんたちも『幸運の跳竜』を探しているらしいんだ」
と男はニコニコ語る。この男は、杭打の煩わしさを知らないらしい。
「ふむ」と地図を見ていた杭打が顔を上げる。「ここにいる者たちは、全員、『幸運の跳竜』を探しているってことでいいんだな?」
「はい」と男が答える。
その場には、杭打の仲間も含め、15人くらいの冒険者がいた。
「パーティーの数は5つか。俺たちのパーティーは4人いるから、2人に分ければ、6つのパーティーができるな。なら、幸運の跳竜を1か所に追い込むような形で6つのルートを設定し、それぞれのパーティーにルートを振り分けようか」
「なるほど」
「少し考えれば、思いつきそうなアイデアだが、誰も試していないのか?」
「いや、それなら試しましたよ」と男は地図を取り出す。そこには色ペンでいくつかのルートが記されていた。「ただ、やつの動きが僕たちの想像以上だったので、うまく追い込めませんでした」
「ふむ」
杭打は渡された地図を眺める。先ほどの嫌味に対する謝罪がない。男を見ると、とくに気にしている様子はなかった。初瀬さんは嫌な顔をしていた。
「よし、なら、君たちはこのルートを、君たちは――」
杭打から指示を受けた後、俺と初瀬さんは指定されたルートを歩く。
「まぁ、悪い話じゃない」と初瀬さんは言う。「これで俺たちもやつを倒しやすくなったからな」
「ですね」
モンスターを倒しながら、進んでいると、不意に声が聞こえた。
うまく聞き取れなかったが、幸運の跳竜がやってきたことを察し、杖を構える。
闇の中から、幸運の跳竜がぬっと現れ、俺たちに突っ込んできた。その瞬間、俺は魔法を発動し、大量の氷の粒を幸運の跳竜にぶつけた。
「ギャッ」
予想外の範囲攻撃だったためか、幸運の跳竜は目をつむって足踏みをした。その隙を逃さず、俺は間合いを詰めて、杖を振り下ろす。跳竜は最小の動きで俺の攻撃を避ける。が、それは俺の想定通りだった。杖が幸運の跳竜の脚をかすめたところで、魔法を発動。杖で地面をたたいた時、一面が凍って、跳竜の右脚も氷漬けになった。
「ギャギャッ」
大事な脚が地面に張り付いて、幸運の跳竜は慌てる。無理に動かせば、脚を失うことになる。そんな幸運の跳竜の顔面を俺は杖でぶん殴った。1発、2発、3発! 氷魔法を付与した攻撃で、幸運の跳竜の体力を確実に削る。
「初瀬さん!」
「おぅ!」
俺が後方に跳ぶと、入れ替わるように初瀬さんが跳びかかり、炎をまとった剣で、幸運の跳竜の首を切り落とした。
呆気ない最期。
黒い霧となって、消える幸運の跳竜。
俺たちはハイタッチで勝利を祝った。
そして、跳竜がいた場所にあったアイテムに気づく。
「宿須君、これは……」
「何ですかね?」
初瀬さんに促されたので、俺がそのアイテムを拾う。金色のバスケットシューズみたいなアイテムだった。かかとのところに、『跳竜の靴』と書いてある。
「履いてみるといいよ」
「いいんですか?」
「もちろんだ。君がいなかったら、倒せなかったからね」
「ありがとうございます」
俺は早速、右足で靴を履いた。中はふかふかしていて、履きやすい靴という印象だった。
「どうだ?」
「履きやすいですね」
しかし、履きやすい以外の特徴が何かあるはず。その特徴について探ろうとしたとき、闇の中から杭打とその仲間が現れた。杭打は『跳竜の靴』を見て、興味を示す。
「それは?」
「幸運の跳竜を倒したら、手に入ったアイテムです」
「なるほど。何で、勝手に履いているんだ?」
「え?」
「まずは私に報告して、その靴を渡すべきだろ」