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腐ったミカンの下剋上  作者: 三口 三大
第2話 腐ったミカン
15/67

15. 特訓①

 また朝が来た。


 俺はスマホを手に取って、ネットをさまよう。


(そろそろ仕事でもするか)


 健診に行った直後から、配達員のバイトを始めた。専用のアプリを開き、いつでも対応できるようにしていると、通知がすぐに来た。


(早いな)


 もう少しダラダラしていたい気分だったが、待たせるわけにもいかないので、行動を開始する。多くの冒険者が同じバイトをしているのか、ギルドで自転車の貸し出しがあったので、ギルドで借りた自転車を使う。通知のあった飲食店に向かい、そこで受け取った商品をお客さんのもとへ届ける。最低限のコミュニケーションで済むし、やりたくないときはやらなくていいから、気が楽な仕事だった。


 10件ほど消化し、今日の業務は終了。おにぎりを一つだけ食べてから、特訓のためにバッティングセンターへ向かう。


 バッティングセンターでの特訓と言えば、野球選手にでもなるのかと思われるかもしれないが、あくまでも冒険者としての特訓だ。


 あのとき――大上司を炎の杖で殴ったとき、打撃と魔法の合わせ技で強力な一撃を与えることができた。そのときの経験から、殴った瞬間に魔法を発動できるようになれば、攻撃の幅が広がるような気がした。だから、打撃に合わせて魔法を発動できるように、打席に立つ。


 バットを構え、集中する。魔法を発動するときみたいに、自分の中にある『魔力』をイメージした。そして、バットを振るタイミングで魔力を流し、ボールを打った瞬間に魔法を発動する。結果はゴロだったが、大事なのは打球じゃない。タイミングよく魔法を発動できたかどうかだ。


(今のは……うまく発動できたかな?)


 爆発とかが起きるわけではないから、感覚に頼るしかないのが難点だ。それでも、このやり方を続ければ、できるようになると信じ、俺はバットを振り続けた。


 そして、人に見られていることに気づいたのは、1ゲーム目の打球が終わったときだった。


 振り返ると、厳めしい顔つきの老人がネット越しに俺の打球を見ていた。


 多少のやりづらさを感じながら、2ゲーム目に挑戦しようとしたところで、老人が言った。


「おい、そこの若いの」


「……私ですか?」


「そうだ。お前さん、野球は初心者か?」


「まぁ、はい」


「そうか。道理でフォームがめちゃくなわけだ。いいか、ボールを打つときは、もっとこう腰をいれるんだ」


 老人は身振り手振りで打球のフォームについて説明する。


 正直、ありがた迷惑だった。


「はぁ、なるほど」


 俺は適当に頷き、2ゲーム目の打席に立つ。フォームとかどうでもいい。俺にとって大事なのは、そこじゃない。魔法の発動タイミングだ。ボールが飛んできたので、バットを振る。ぼてぼてのゴロだったが、タイミング良く魔法を発動できた気が――。


「違う。そうじゃない!」


 ――老人のせいで、それどころじゃなくなる。


(面倒くせぇ)


 老人の指導を適当に聞き流しながら、2ゲーム目を終える。そのまま帰ろうとしたら、老人が打席に入ってきて、自分の金を入れた。


 戸惑う俺に老人は言う。


「ほら、ボールが来るぞ。さっさと打席に立て!」

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