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参謀長は休暇中 ~竜の眠る島~  作者: 錫乃(すずの)


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15/28

参謀長は王太子殿下を囮にします

※若干の暴力表現ありです。

フェアノスティ王国友好使節団の到着から6日目。

この日、カロッサ王国首都クルデは朝からざわざわと浮足立っていた。


「フェアノスティ王太子殿下と珊瑚姫様がお出かけになるらしい」

「なんでも、クルデ郊外にお二人の思い出の花の群生地があるらしいってんで、一緒に見に行かれるそうだ」

「ああ、あの熱病に効く薬の、なんてったっけ……」

「レンセジウムだ、たしか」

「そうそう、それ。しかも、今日は真珠姫様もご一緒されるらしいぞ!」

「へぇ~!真珠姫様が王宮からお出ましなんて珍しいな!」


フェアノスティ王太子の求婚を受け入れたとの噂の珊瑚姫と、滅多に王宮から出ることのない真珠姫までお出ましになるということで、殿下方を一目見ようという民で大通りは大変な人だかりとなっていた。

その中で、旅行客風の男たち2人が賑やかな街の人々の噂話を聞きつけて、額を寄せ合って小声で話していた。


「おい、真珠姫まで出てくるなんて、聞いてないぞ!?」

「王族の気まぐれか、それともこっちの動きを察知されたのか……」

「どうする!?」

「………もしも本当に王宮から出て来るってんならこっちで押さえるしかないだろう。

銀髪の文官風の貴族は同行するので間違いないんだな?」

「ああ」

「真珠姫の件は、一応閣下にもご報告しろ。俺は他の仲間にも伝えてくる。」

「りょ、了解!」


走り去っていく仲間の背を見送って、もう一人の男は大通りを一瞥したあと、雑踏に紛れて移動していった。








燦燦と降り注ぐカロッサの太陽の下、貴賓用の馬車とそれを護衛する騎士の一団がカロッサ王宮を出発した。

沿道を埋め尽くす人並みに向かって馬車の窓からにこやかに手を振るのは、先日ドネリ港から首都クルデまでの道のりでも同じ様に民に笑顔を見せてくれたフェアノスティ王国のルシアン王太子だ。

同乗しているカロッサの姫君二人も、民からの声援に微笑んで小さく手を振り返していた。

騎馬の護衛騎士の中に一人、貴族の乗馬用礼装を着こなした暗めの銀髪の男が混じって馬を進めていて、その美しい容貌に見ていた女性陣から黄色い歓声が飛んでいた。


賑やかな首都内をゆっくりと抜け、一行が城郭外に出るころには日はだいぶ高くなっていた。

その馬車内で、ルシアン王太子は先ほどまでとはうって変わって仏頂面でため息をついていた。


「はぁ…………」

「………………」

「………………緊張感がないですよ、王太子殿下」

「だってさぁ~、ホントなら華やかな女性二人との楽しい車内なのにさぁ」

「………………」

「………………仕方ないでしょう」

「わかってるけどさ。まぁ見た目だけは華やかだけど……はぁ……」


ぼやくルシアンを、レイリア(・・・・)が笑顔をひくつかせながら宥め、アリスティア(・・・・・・)は同じく笑顔のままに沈黙を守っている。

窓の外をみて溜め息をつくルシアンの横顔には、少しだけ焦燥が滲んでいた。


「王太子殿下、王宮に残した王女殿下(・・・・)のことはご心配でしょうが、どうか……」

「……わかっているなら、愚痴ぐらい言わせてよ」

「……」


察したレイリア(・・・・)が口にした言葉に、ルシアンが短く答えた。そのまま、3人とも黙ってしまい車内はしばし気まずい沈黙で満たされた。だがすぐに御者台に座る男から予定地点に近づいた旨の声がかかった。間髪入れずに馬車が停まり、外が騒がしくなる。


「さてと、ちょっと出てくるかな」

「殿下…!? ならば私も…!」


黙っていたアリスティア(・・・・・・)が慌てたように席から腰を浮かせる。

それをルシアンは片手で制した。


「君たちはこのまま馬車内で待機だよ。その魔道具に魔力吸われてフラフラしてるんだろう?

ここに王女(・・)が居るって奴らに思わせられたんだから、二人はもう充分仕事してくれたさ」

「しかし!」

「僕だって外に出てもただの囮代表としてつっ立ってるだけで、何もできやしないよ。

これから外で起きることは、竜宮の領分だからね」


馬車の扉を開けた王太子が振り返り、車内に残る二人に向け耳朶を指さして言う。


「それ、外が片付いたら外してもいいけど、念のため、もうちょっとだけ我慢ね」

「「御意」」


揃って頭を下げた二人の王女(・・)の耳には、青黒い八角形の宝石が嵌め込まれた揃いの耳飾りが光っていた。



愛用の剣を片手に持ち後ろ手に扉を閉めたルシアンは、馬車の脇に立つ暗銀髪の男(カルセドニクス)に歩み寄った。


「出てこられたのですか、殿下」


ニヤリと笑って見下ろすように、男が言う。

中に籠ったままでもよかったのにという言外の意味をくみ取ったルシアンは、にこりともせず男の隣に並んだ。


「多少でも躰を動かしていた方が気が紛れる。」

「なるほど。

トリスタとタキトゥスは?」

「魔力吸われてフラフラだから馬車の中。君もカルも、それ(・・)付けててよく平気だよね」

「竜使の間はナザレの魔力を借りておりますから。普段なら私など一瞬で魔力を吸われ尽くして倒れますよ」


そう言って笑う男の手元で、通信魔道具から報告が入った。


『集団は全て包囲円内に入りました、団長(・・)


聞き覚えがある声に、おそらくエアッド・ジュネ―だとルシアンはあたりをつけた。


「了解した。殿下?」

「では、はじめようか」






クルデ郊外にある小さな森の中。白い花をつけたレンセジウムの群生する草地の中央に停車した馬車の周りを、護衛の騎士達が固める。

それをぐるりと包囲するように、武装した集団が迫る。

集団から一人、あきらかに他の者よりも高価そうな装備を身に着けた男が進み出て、声を張り上げた。


「この一帯は包囲した!!

おとなしく、カロッサの第三王女と、フェアノスティのザクト辺境伯子息の身柄を渡せ!!」


言われた方のフェアノスティ王太子とその一行側は、一瞬ぽかんとなった。


「は?」

「今、なんてった?」


要求された内容に予想外の名前が混じっていた気がして、暗銀髪の男(カルセドニクス)とルシアンは思わず聞き返していた。


「聞こえないのか!?

カロッサの第三王女と、フェアノスティのザクト辺境伯子息の身柄を、こちらに引き渡せ!!」



「……聴き間違いじゃなかったですね」と暗銀髪の男(カルセドニクス)

「レイリア王女はわかるけど、カル?僕じゃなくて?」と、自分と隣の男を交互に指さすルシアン王太子。



「「なんで?」」


心の底から湧き出た大きな疑問符を相手にぶつけてみる。

要求した方の男も、ルシアン達の反応が予想外だったのか、怪訝そうな顔にだんだんと苛立ちを滲ませる。


「我々は、カロッサ王国が独占する氷竜の力と、同じくフェアノスティが取り込んでいる竜宮の力を奪取するために来た!」


「?」


「氷竜の化身たるカロッサの第三王女と、空位になっている竜伯を継ぐザクト辺境伯子息を、渡してもらおう!!」


「???」



訊けばきくほど理解できないことが増えていく。

レイリアは氷竜の化身などではないし、竜伯は空位ではないし、もちろんザクト辺境伯子息(カルセドニクス)が竜伯になる予定はない。

眩暈を覚えながらルシアンが隣の暗銀髪の男に問いかける。


「なんというか、認識の齟齬がありすぎてどうしたらいいのかわからないんだけど……?」

「同感です。だいぶ事実誤認があるようです。」

「とりあえず、ふん縛ってからゆっくり話を聞こうか」

「御意。」


暗銀髪の男(カルセドニクス)がさっと片手を挙げると、途端にあたり一帯に地鳴りが響いた。

唐突に、包囲している集団の更に外側をぐるっと取り囲むように巨大な土壁がせり上がった。

土壁の上には、集団を見据える異形の者が等間隔に並んで立っていた。その数、6人。

黒に銀の飾り紐を付けた揃いの騎士服と、手には同じく揃いの銀の長剣。顔を隠した白い面と、そして――――――背中に生えた白銀の皮膜の翼。

ルシアンの隣に立つ暗銀髪の男も、耳飾りの魔道具の効果を無効にして、面と剣以外は同じ姿になっていた。

髪の色が本来の錆色に戻った、フラシオン・ダカスである。


取り囲んでいたつもりの集団だが、逆に完全に囲まれた状況にすっかり動揺し戦意を喪失していた。

その彼らを、土壁から降りた竜使が次々と魔法で捕縛していく。

先ほどまでこちらを恫喝していた集団の長らしき人物が、取り押さえられながらも声を上げた。


「竜の化身が……七体も!?

しかもその髪と剣、まさか、赫火(しゃっか)の剣鬼か!?」

「ご名答。

悪かったな、お目当てのザクトの坊ちゃんじゃなくて」

「くっ…………!」

「俺の二つ名以外は、なんか全部まるっとものすごい誤解をしてるみたいなんだが、まずそもそもの話、竜伯は今も空位じゃないぜ?」

「………は??」

「俺たちは竜の化身とかじゃなくて、竜王の……小間使い?」

「………は????」


”小間使い”はどうなんだと、フラシオンの説明に心の中でルシアンが突っ込む。


「それにカロッサの姫さんも竜の化身じゃないしな。

なんかいろいろすぎて、説明めんどくさくなってきた……」


そこまで言うと、放心しかけていた集団の長がはっとしたあと、ニヤリと笑う。


「ここにいるのがザクトの(せがれ)でないとなると、彼奴は王宮に居るんだな!?

馬車内に居る王女も、替え玉か!ならば、我々には好都合だ……!!」


集団を拘束した上で持ち物を検めた竜使の1人が、フラシオンに駆け寄って報告する。


「例のものを持っている者はおりません、団長」

「……」


フラシオンの表情が険しくなったのを見て、武装集団の長はますます歪んだ笑い声を上げた。


「アレを使えば竜の化身の第三王女は簡単に捉えられる。ザクトの倅の文官風情など容易く拘束できるだろうしな!

きっと今頃は閣下が手薄になったカロッサ王宮をまるごと掌握して―――――

ぐあぁああっ!」


取り押さえながらも顔を上げ睨んできた男は、最後まで言うことができなかった。

静かに歩み寄ったフェアノスティの王太子の剣が、その太ももに深々と突き立てられたからだ。


「王宮を掌握って?どういう、ことかな?」


まだ足りないとばかりに笑顔のまま更に力を込めようとするルシアンに、男の喉がひゅっと鳴る。


「閣下って、誰? 説明してくれるよね?」



最後まで読んでいただきありがとうございました。

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