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報告と今後

「ただいま戻りました。クリエイター」

 私がキッチンでコーヒー豆を挽いていると、豚の神が戻ってきた。

「よく戻った」

 そう伝えると、一礼して、豚の神は椅子に腰を掛けた。

 たしか、名前は天ヶ谷(あまがや)慧だったはずだ。

 しかしそんなものはもはやどうでもいい。神は神でしかない。

 ただ、さっき完成した神も豚がモチーフだ。区別するには何か名を与えねばなるまい。

 挽いたたコーヒー豆の粉をフレンチプレスに入れる。

 粉を平らにならしたら、沸かしておいたお湯をゆっくり注ぐ。

 そして蓋をセットする。

 タイマーを四分にセットする。それ以上でもそれ以下でもだめだ。

 お湯の量もそうだが、しっかりと規定を守ることだ大事なのだ。

 さて、コーヒーの抽出の間に皆の報告を聞こう。

「それでは、皆のもの。集まってくれるか」

 私が声をかけると、ドーベルマンの神と、ハヤブサの神と、牛の神と、豚の神がキッチンの前に並んだ。

「それでは一人ずつ報告をしてもらおう」

 私がそう言うと、「では私から」と言ってドーベルマンの神が手を挙げた。

 この中で唯一の女性だ。ただそれは人間界においてという括弧が付くが。

「おっと。そうだった」

 ドーベルマンの神が話し始める前に私が遮った。

「申し訳ない。私も名を捨てたが、便宜上“クリエイター”と名乗っている。君たちにも名を与えようと思う」

 そう言うと、皆口々に「名をいただけるのですか」や「光栄なことです」と喜んでいた。

 その時だった「うわああああああ」と二階から大きな声が聞こえた。

 皆が驚いたが、私が新しい神を創造したことを説明すると納得した。

「オ、オレモ、サイショ、ソウダッタ」

 牛の神が言った。

 彼は頭が重いので話すのがやっとなのだ。

 でかい槍を両手で持ち、身体を支えて立っている。

「なるほど。豚の神が二人になるので分けるために名前を与えてくださるのですね」

 ハヤブサの神が頷きながら言った。

 この中で経歴的に一番優れている。くだらない社会のステータスに過ぎないが、賢いということは、悪いことではない。

「そうだ。何か希望はあるか?」

 特に考えていなかったので、希望があればと問うたが、皆が「ぜひ与えてほしい」というので、私が考えることになった。

「それでは……」

 ドーベルマンの神、ハヤブサの神、牛の神、豚の神の順に、ダヴィト、ゴヤ、タサエール、ドラローシュと名を与えた。

 名前など何でもよかったが、思いついたのがこれだった。私に少なからず影響を与えた画家の名だ。

 新しい豚の神にはシッカートという名を与えよう。

 タイマーがここで鳴った。

 私はプレスを下げながら、ダヴィトに報告を促した。

「私の夫は、私の姿とクリエイターの考えを拒絶したので、神として裁きを、死罪を下しました」

「そうか」

 私が頷くと、ドラローシュも手を挙げ「私も同じ結果でした」と言った。

 二人の斧に血がついていたのでなんとなく予想は出来ていたが、残念だ。

 同士は多い方が良い。

 フレンチプレスからコーヒーを注ぐ。

「それでは、ゴヤ。君はどうだったかな」

 ゴヤは一礼すると「報告します」と言って一歩前に出た。

「私の妻、そして両親も私の姿に驚き、また、考え方に同意しませんでした」

 私はゴヤの報告を聞きながらコーヒーの香りを楽しむ。

 ゴヤ毛並みは美しい。顔中に羽を一本一本私なりに丁寧に縫い付けたので、見惚れるほどだ。

「しかし、私は天罰として、死罪にはしませんでした」

 たしかにゴヤの斧はきれいなままだった。

「そうか。それではどういう天罰を下したのだ?」

「はい。私は、禁固刑に処しました。妻と両親の手足を縛り口をガムテープでふさぎ、今は車の中に置いています」

 私はコーヒーを啜った。

 フレンチプレスは油分が出るから、味にコクがある。

「素晴らしい」

 私が称えると、ゴヤは「ありがとうございます」と頭を下げた。

「禁固刑としましたが、その後はクリエイターに捧げます」

「そうかそうか」

 作品作りの被験者にしてもいいし、また別の何かに使えるかもしれない。

 これは素晴らしい成果だ。

「それでは、タサエール。お前はどうだった?」

 タサエールには家族がいない。しかし「オレモ、ナニカ、スル」と言って出て行った。

 自分だけ何もできないのは嫌だったのだろう。

 向上心があることは悪いことではない。

「ク、クリ、エイター、コレ、モッテ、キタ」

 そう言ってサエタールが出したのは大きい鞄だった。

「ドラローシュ、中を開けてあげなさい」

 タサエールは身体が大きく力はあるが、動きが鈍い。細かいことは難しい。

 私の指令に「はい」と言ってドラローシュが鞄を開け、中のものを出した。

 数丁のライフルと、その弾だった。

「ヤマノ、ホウ、イッテ、シュリョウノ、ムラ、ハカイ、シテ、マワッタ」

 タサエールはもともとスポーツをやっていたらしくガタイがいい。

 所持していた車もオフロードのものだったので、その方面に詳しかったのかもしれない。

「ノコリ、クルマ、マダ、タクサン、アル」

 説明を聞くと、小さいとはいえ村を一つ壊滅させたようなので、それなりの物資を奪ってきたと話した。

「それは素晴らしい働きだ」

 私は素直に賞賛を送る。

 コーヒーを飲みほした。

 報告もこれ以上ないだろう。

「それでは、解散としよう。また次の活動まで、待機だ」

 そう伝えるとゴヤは本を読み始め、タサエールはソファに横になった。

 しかしダヴィトとドラローシュは私の元に駆け寄ってきた。

「申し訳ございません、クリエイター。私たちは成果を上げられませんでした」

 ダヴィトがそう言うと、ドラローシュも一緒になって頭を下げた。

「気にすることはない。最初は誰も受け入れられないものだ」

 真面目なことは良いことだ。しかし気にしすぎるのもよくはない。

「ですが、何かできませんでしょうか」

 ドラローシュが訴える。

「うむ。それでは、先ほど目を覚ましたシッカートに選ばれた喜びを伝えてやってくれないか」

 私がそう言うと、二人は嬉しそうにした。

「ぜひやらせてください」

「任せてください」

 そう言って二人は二階に上がっていった。

 手間が省けた。

 ダヴィト、ゴヤ、タサエール、ドラローシュも最初は姿の変わった自分自身に嘆き悲しみ、自殺しかねないほど病んでいた。

 しかし、私が手間暇かけて、食事の制限をしたり、時には体罰を与えたり、教育することで、神としての自覚を持つことができた。

 彼らなら私がやったことをわかっている。シッカートにも十分に神としての自覚を持つように教育を受けさせることができるはずだ。

 道のりは長い。

 芸術の評価、世界の創造、価値観の統一、それらは時間のかかることだ。

 まずはここから。

 ゴヤも人材を連れてきてくれている。

 一歩ずつ始めようではないか。

 私はこの世界のクリエイターなのだから。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヒーローが戦う悪役たちの誕生を見たような気分です。 はたしてこの世界にヒーローは現れるのか、あるいは、クリエイターこそがヒーローなのか、それはまだ分かりませんね。 画家の名前というのが芸術…
[良い点] こっわぁぁぁ! めっちゃこっわぁぁぁ! 何という異常者。選ばれたくないいい (泣) でもこういう人本当にいそうで怖い。
[良い点] 神様に、名前をつけることによって、よりリアリティーになって立体感が出たと思います。 怖いながらも悪いやつらの会話は面白みがあり、ワクワクしました。
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