クリエイト
なぜ気が付かなかったのか。
今思えば簡単なことだった。
牛と人間とを融合させた作品を作った後で、ひらめいたのだった。
頭を丸ごと交換することはなかったのだ。
人間の頭をそのままに、動物のパーツをくっつけていけば完成できると、思い至ったのだ。
ただ、方法を変えたせいで、被験者を連れてくるのに頭を叩き割ることができなくなったので、その点では苦労が増えた。
だから最初に完成したときは嬉しかった。
神をこの手で作り上げたのだから、喜ばない方がおかしい。
それに失敗作をたくさん出したのでできた時の喜びはたまらなかった。
今もまた、新たなる神の創造を始めるところだ。
まずは、台に寝かせた男の額にナイフを入れる。
生え際をなぞって顔のラインを切る。
そして顎からめりめりと顔面の皮膚を剝がしていく。
しっかりと筋肉が見える状態になるまで皮膚を剥がす。しかし剥がし過ぎて骨にしてはいけない。
何度やっても難しいもので、一回ではきれいに剥がしきれない。肉としっかりくっついているからだ。
でもその方が良い。きっと人間として身体の組織が丈夫な証拠だから。
一度、頭の皮膚を全部引き剥がして作ったが、それだと味気なかった。
やはり人間の髪の毛を残した上で、動物の顔面がある、というのが良いのだ。
耳は必要ないのでナイフでそぎ落とす。
昏睡状態だから痛みは感じていないだろう。
しかし眉間にしわが寄っている。不快なのは今だけだ。
目覚めれば、素晴らしさに気が付く。それまでの辛抱だ。
今回作るのは豚だ。前に一回成功しているので、今回もうまくいくはずだ。
耳はやはり頭の上の方が良い。再現率は高い方が良いに決まっている。
ホームセンターで買ってきたチューブの先端を、耳の穴に差し込みこめかみに縫い付け、もう片方の先端が上を向くようにする。そこにそぎ落とした豚の耳を差し込む。完璧だ。
豚の鼻をくりぬいておいたので、それを男の鼻にはめ込み縫っていく。
そしてそのまま、上くちびるに取り掛かる。上くちびるは皮膚と同時に剥がれてしまうので、豚の上顎の皮を鼻の下に縫い付ける。
さて、次の下くちびると顎の部分が難所である。
前回の豚の時はなんとか完成したけれど、やはり初めてだったのもあり、いくつか荒い部分があった。それが下くちびるだ。
ただくっつければいいと思っていたので、なにも考慮せずに作ってしまった。そのせいで、彼は口を閉じることができなかった。
それに鼻のも空気の通りが悪く、口呼吸になってしまい、常にふがふが言いながらよだれをだらだらと垂らしている状態だった。
でもしっかりと会話もできるし、生命活動も問題はない。
今回はその失敗を生かして、口が閉じるように下くちびるを縫い付ける。
ドーベルマンを作った時よりかは簡単だ。
ブルドックやチワワのように口が平らだったり、短かったりするものはいいが、口が長いものは大変だ。
この場合は縫い付けるのではなく、はめ込むイメージだ。
ドーベルマンの下顎と上顎を解体し、被験者下顎と上顎にはめ込む。そして顎関節あたりに電動ドリルを使い、ねじでくっつけた。
口を開けると、犬の歯と人間の歯が並んでいるが、強度がしっかりしているので、口の開閉は問題なく出来た。
彼女も最初は戸惑っていたが、段々とそれに喜びを感じるようになった。
しかし今回は豚なので、電動ドリルの出番はない。
額や頬に皮を張り付け、縫っていく。
慣れたものだ。最初はぎこちなかったけれど、今はコツを掴めている。
すべて終わると、消毒液をかけ、包帯でぐるぐると頭を巻く。
あとは人間のもつ自然治癒力で、豚の皮が癒着していく。
たまに拒絶反応を起こして死ぬものもいたけれど、適合だから仕方がない。
選ばれなかったということだ。
そろそろ、昏睡状態から目覚めるかもしれない。
被験者を担ぎ上げ、アトリエを出る。鍵を閉めるのを忘れてはいけない。
二階に上がり、出て行った妻が使っていた部屋に入り、これまた妻が使っていたベッドに被験者を寝かせる。
部屋を出ると、外から南京錠で鍵をかけ、勝手に出られないようにする。
もちろん、窓も塞いでいる。
目覚めたら声がして嫌でも気が付くはずだ。それまではしばらく休もう。
しかし、まずは身体についた血を流さなくてはと思い直し、バスルームへ向かった。