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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

不老不死の魔女と呼ばれた解毒師は、治療した王国の第三王子から溺愛されて困っています。

作者: あざね

短編です(*‘ω‘ *)

一区切りのところで終わりです。









「く……! 近寄るな、この魔女が!!」

「………………!」





 村人はそう言って、私のもとから去っていく。

 今まで幾度となく繰り返したやり取りだ。人々は私のことを魔女だと呼び、腫物を扱うようにして距離を置く。殺されるわけでもなく、ただ化物として見られていた。

 昔はごく普通の村娘だったのに。

 あの日、自身が調合した試薬を口にした時から、私は魔女となったのだ。

 そう――『不老不死』の魔女、という存在に。



「はぁ……。少し食材を買いに行くだけで、この扱いだものね」



 それでも生きていくには、食事をしなければならない。

 私の場合は食事を摂らなくても、死ぬことはないだろう。それでも、空腹がいつまでも続けば精神がもたない。いかに不老不死であろうと、人間の身体は難儀だった。

 そんなことを考えながら、私は自身の家として扱っている小屋に到着する。


 中に入ると、そこには山のように積み重ねられた本の数々。

 そして近隣の森で採れる薬草や魔物の血を溜めた釜、さらには効果があるのか終ぞ分からなかった杖が数本。これらはすべて自身の不老不死を消し去るため、研究した名残だった。




「…………でも結局、五百年経っても進歩ナシ、ってね」




 私は自嘲気味にそう口にすると、鏡の前に立つ。

 そこに映し出されたのは、老婆のような真っ白な髪をしているくせに、二十代の頃から顔立ちの変わらない女の姿だ。あまりにミスマッチな容姿に、私はまた息をついた。

 そして、次に日銭を稼ぐための仕事へと取り掛かる。



「えっと、注文があったのは腹痛と頭痛に効く薬、か……」



 こういった薬の作り方は、自身の薬を作る際にできた副産物だった。

 村の人々とは、これを食糧と交換することで関係を保っている。互いに利があるから、変な癇癪を起されることもない。身の安全は確保され、研究に没頭できるのだった。



 そんな日々が、五百余年。



 孤独なことにはもう、すっかり慣れてしまった。

 私の姿形が変わらないことに気付いた周囲が、次第に青ざめていく様は今でも憶えている。唯一の味方であった両親も亡くなり、次に待っていたのは謂われない陰口だった。何か悪いことがあれば、私のせいにされる。

 誰かが怪我をすれば、私が呪いをかけたのだ、と。

 そんなもの、あってたまるか。


 しかし、人の偏見とは恐ろしいもの。

 私は逃げるように森の小屋に逃げ込み、今の生活を始めた。

 薬と食料とを交換するようになったのは、ここ百年ほどの話だ。




「……よし、できたね」




 そんな昔を思い返しているうちに、薬が完成した。

 なんてことない。数種類の薬草を火で焙った後、煎じるだけだ。あとはこれを飲みやすいように、小さな紙の中に入れるだけ。

 それを取りだそうと、少々散らかった棚に手を伸ばした時だった。




「誰かいないか! 助けてほしい!!」

「…………え?」




 聞き覚えのない男性の焦った声が、聞こえてきたのは。

 私はただ事ではないと思い、即座に玄関のドアを開いたのだった。










「急患は、この男性……?」

「えぇ、この方は王都ガリアの――」

「そんなこと、どうでも良いから。さっさと診せて」



 おそらくは従者なのだろう。

 ひときわ煌びやかな鎧をまとった青年のことを説明しようとする相手に、私は興味がないとハッキリと告げた。その上で、色々と面倒な装備を脱がせる。

 上半身裸になった患者の胸部に耳を当て心臓の動き、さらには手首から脈を確認した。すると分かったのは、それらが次第に弱まっていること。


 このまま放置すれば、ほぼ間違いなく死に至る。

 そう考えたが、あえて従者には伝えず状況を訊ねることにした。



「ここまでくる前に、なにか変な物食べなかった?」――と。



 その言葉に従者は真剣に考え込む。

 そして、ハッとした表情でこう言うのだった。



「食べていました! ケイロン様は、紫色の木の実を!!」

「あー……なるほど、ね」



 私はそれを聞いて、患者の症状を察する。

 どうやら青年は『イエンの実』を食べたらしい。

 この木の実は、私の住む森にのみ成っている特殊なものだった。正確な手順を踏まずに口にすれば呼吸困難をもたらし、やがて死んでしまう。

 要するに、一般的に『猛毒』と呼称されるものだった。



「分かった。それなら、ひとまずこの水を飲ませて。私は家から薬を取ってくる。心配しなくても、死ぬにはまだ十分くらいあると思うから」

「ひえ、死ぬ……って!?」



 そうと決まれば、次の行動は決まっている。

 私は従者の男性に指示して、急ぎ小屋へと向かった。乱雑に置かれた瓶の中から、当該の薬の入ったそれを手にして戻る。

 到着すると主らしき青年は顔を真っ青にしていたが、息絶えてはないらしい。

 これなら、ひとまず間に合うだろう。




「それは……?」

「説明はあとで。とりあえず、薬を飲ませたら男の口を塞いで」

「へ? どうして――」

「いいから!」

「は、はい!」




 そんなわけで、私は水に溶いた薬を青年の口から流し込んだ。

 すると――。






「うぶおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」






 ――見目麗しい姿とは裏腹に。

 その青年は、あたかも獣のようなうめき声を発した。

 同時に薬を吐き出そうとするので、私と従者の男性でそれを抑え込む。この薬は、要するに『この世のものとは思えないほど不味い』のだった。

 開発した私としても、いつか改良しなければと思っている代物。

 ひとまず、この青年にとっては勉強代、ということか。




「あ、うぅ……?」

「ケイロン様! 目が覚めたのですね!!」

「あ、あぁ……ニア。だけど悪い、少し横にさせてくれ……」





 死の淵から戻った青年は、従者にそう告げて意識を失った。





「ケイロン様ああああああああああああああああああああああ!?」






 王都から遠く南方に離れた森の中。

 そこには、従者の男性の叫び声が響き渡っていた。











「いやあ、助かったぜ。ありがとうな、姉ちゃん!」

「元気になったなら、それは良かった」




 ――数時間後。

 私の小屋にある小さな客間には、自分を含めて三人の姿があった。

 言わずもがな、先ほどの一件で助けた二人である。従者――ニアの方は正座をして、出された薬湯をチマチマ飲んでいた。対して主のケイロンは胡坐をかき、豪快に一気飲みして笑顔で言う。




「うん! 不味い!!」

「それはまぁ、美味いものじゃないからね」

「いやいや、それにしても程度があるだろう?」

「良薬口に苦し、ということだよ」

「素っ気ねぇなー……」




 この青年には、忖度や遠慮というものがないのか。

 私は自分の分を口にしながら、彼のことを改めて観察した。

 金色の髪に、蒼の瞳。ヤンチャな印象ながらも、見目麗しく美形と言わざるを得なかった。背も高くしっかりと鍛えているので、女性からの人気も高いだろう。

 そんな彼は小屋の内装が気になるのか、こんなことを訊いてきた。



「姉ちゃんは、ここに一人暮らしなのか?」

「ん、そうだね。もう何年になるか、分からないよ」

「ふーん……?」



 その上で、おかわりした薬湯を一口。

 やめればいいのに、また眉をひそめていた。



「それだったら、こんな噂を聞いたことはないか」

「噂……?」




 そして、ふと思い出したようにこう訊いてくる。







「不老不死の魔女が、この森に住んでいる……って話だ」――と。







 無邪気な声色とは裏腹に、視線は鋭い。

 私はほんの少しだけ肝が冷えたが、表情に出さず応えた。



「あぁ、それなら……」





 隠す必要もない。

 ただ、また避けられるだけだから。






「私のこと、だね」――と。







 その答えを口にして、しばし小屋の中には沈黙が生まれた。

 ケイロンは私を値踏みするように見てから二度、三度と頷く。そして、




「やっぱりな」




 あっけらかんとした表情で、そう言うのだった。

 私は一つため息をついて訊ねる。




「それで……? もしかして、村人の依頼で討伐にきたのか?」




 それは、もう慣れてしまった内容だった。

 私は魔女として恐れられている。したがって薬を受け取りながら、快く思わない者が刺客を送りつけてくる。こういったことは、今まで幾度となく繰り返してきた。

 今回もどうせ、似たような話だろう。

 そう思って私はケイロンを見て、ハッキリと伝えた。




「なにをしても、意味はないぞ。私は死なないからな」




 たとえ、剣で心臓を貫かれようと。

 たとえ、水の中に沈められようと。

 たとえ、火の中で燃やされようと。



 私は死なない。

 この『呪い』は、いまだかつて破られたことはなかった。

 だから、前もって忠告するのだ。



 なんの意味もないのだ、と。

 私はこれからも一人で生きていくし、変わることはない、と。






「あー……」

「……どうした?」






 そう思って、彼を見たのだが。

 どうにもケイロンは、難しそうな表情を浮かべるのだった。

 私はその意味が分からずに首を傾げると、青年はようやくこう口にする。





「最初はたしかに、そういう依頼だったんだけどさ。ちょっとばかり、都合が変わったというか?」

「なんだ、それ」

「いやー……。これが、なかなか言いにくいんだけどさ――」





 私は間に耐え切れず、薬湯を一口。

 その瞬間だった。





「――俺、姉ちゃんに惚れちまったみたいなんだわ」

「ぶふううううううううう!!」






 ケイロンが、爆弾発言を放ったのは……!



「な、ななななな!?」




 私が目を白黒させて見ると、そこには至って真面目な表情の彼がいた。

 真っすぐにこちらを見据える眼差しに、嘘偽りはない。

 無邪気な風体のために、それがよく分かった。




「なぁ、姉ちゃん。こんな森捨てて、俺と一緒に王都にこないか?」




 困惑する私を余所に。

 ケイロンは、真剣な口調でそう言うのだった。




「森の魔女は行方をくらまし、一人の優秀な解毒師を連れ帰った。それだけで、すべての話が丸く収まるだろう?」




 有無を言わさない口調で。

 しかし、私は唇を噛みながら答えるのだった。








「すまないが、断る……」――と。















「両親との思い出の村、ね……?」

「良かったのですか、ケイロン様」

「本人が故郷を離れたくない、って言っているんだ。俺には無理強いする権利はないし、そんなことしたら嫌われちまうだろう?」

「それは、そうですが……」




 魔女と呼ばれた彼女の小屋を出て、ケイロンとニアはそう話す。

 彼女曰く、いくら嫌われようとも故郷に変わりはない、とのことだった。

 両親が住んでいた家は残してもらっているし、そこにはたくさんの思い出の品がある。だから、何もかもを捨てて出て行くことはできないのだ、と。




「たしかに、あの方の気持ちも分かりますが……」

「安直だ、って言いたいんだろ。ニア」

「う……」




 従者の口振りに、ケイロスは深くため息をついた。

 その上で、静かにこう語る。




「人の心ってのは、それだけ複雑なんだよ。帰る場所があるっているのは、心の安定に繋がる。その安定を捨てるっていうのは、簡単じゃない」




 ただ、その上でこう続けるのだ。





「だけど、俺も思うよ。この環境は、あの姉ちゃんにとって『猛毒』だ」――と。





 どれだけ縋っても、帰る場所が必ずしも安寧の地とは限らない。

 ケイロスはそう言ってふと、木々の生い茂る森の方を見た。




「どうされたのですか? ケイロス様」

「これはちっと、ヤバいかもな。――ニア、戻るぞ!!」

「ええ!?」





 そして、一気に駆け出す。

 ケイロスは真っすぐに、彼女の小屋のあった方へと向かうのだった。














「この場所を離れて、か……」





 今まで、そのような提案をされたことはなかった。

 私はケイロスの言葉を反芻し、噛み締めるように繰り返す。しかし、何度繰り返しても出る答えは同じだった。

 両親が残した場所。

 自分が生まれ育った村。

 そして、そこで病に苦しむ人々を捨てては行けない。




「もしかしたら、私は相当の馬鹿かもしれないな」




 もっと、利己的かと思っていたけれど。

 歳だけ重ねて、根っこの部分はまるで乙女のようだった。

 だが、もう遅い。ケイロスたちは帰ったのだ。戻ってくることはない。





「ん……?」





 そう、考えていた時だ。

 なにやら、外が焦げ臭いのが分かったのは。




「もしかして、火事……!?」




 立ち上がった私は、とっさに大量の『やけど治し』をかき集める。

 どれくらいの被害が広がっているか、まだ分からない。出来得る限り、村人全員を救えるだけの薬を抱えて、私は大急ぎで小屋を出て――。










「…………え……?」










 目の前で、農具を構えて立つ村の人々に言葉を失った。




「今日が、最後だ……この、魔女が!!」




 そう言って、先頭の男性が鍬で私の顔を殴打する。

 為すすべなく一撃を喰らって、薬を投げだしながら受け身も取れずに転がった。すると、そんな私目がけてさらに、他の村人からも攻撃が加えられる。



 ――痛い、痛い、痛い痛い痛い。



 皮膚が裂け、血が流れる。

 ぶたれた箇所が、うっ血して青くなっていく。

 骨が折れたのだろうか。足首が、変な方向に曲がっていた。




「さっさと死ね! 死ねといっているだろう!?」





 狂ったように叫ぶ村人たち。

 私はそれを見て、改めて自分が『魔女』なのだと悟った。

 どのように村へ貢献しようとも、人ならざる者であることは変わらない。人は己と違うものを恐怖し、排斥する生き物だ。とりわけ姿形が同じなら、より恐ろしい。


 私は結局、誰のためにもなれない。

 そう諦めて、ゆっくりと目を閉じようとした。



 その、瞬間だった。





「――控えろ、下衆共!」





 彼が、私たちの間に割って入ったのは。

 ケイロスは村人たちに向かって、威風堂々とこう宣言する。





「貴様たちが手を出したのは、俺の命の恩人であり、大切な親友に他ならない。したがって――」






 明らかな怒りを含んだ声色で。







「ガリア王国第三王子、ケイロス・ガリア・アスクレイオスの名のもとに、貴様らを処罰する!!」――と。










 







 ――すべてが終わった。


 村人は散り散りになって、どこかへ行ってしまった。

 残されたのはボロボロの魔女と、彼女に肩を貸すケイロスとニア。彼らは燃え盛る森から脱し、一つ高い場所にある丘に腰かけていた。




「…………ありがとう」

「ん?」




 そうしていると不意に魔女が言う。

 感謝を口にして、膝を抱えて、顔を隠すように埋めてしまった。

 ケイロスもニアも、それ以上はあえて何も言わない。ただ、数秒の間を置いた後にこう訊ねるのだった。





「そういや、姉ちゃん。……名前は?」――と。





 そういえば、自己紹介がまだだった。

 今さら元の場所には戻れない。




 こうなっていまっては、元の生活には戻れないのだ。

 それでようやく覚悟を決めた魔女は、王子に自身の名を告げた。






「…………アリス」






 小さな、気弱な女の子のように。

 あまりに愛らしい名前に、ケイロスは思わず微笑んだ。






「そっか、よろしくな。……アリス」






 ゆっくりと、彼女の隣に腰かけて。

 皮肉にも美しく瞬く星空を見上げるのだった。






 これが、一人の魔女と第三王子の出会いだった。





 


正直言おう、力尽きた()



https://ncode.syosetu.com/n2057ho/

しかし、アホなのか連載版を始めた模様。

応援よろしく_(:3 」∠)_



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― 新着の感想 ―
[一言] プロローグって感じですね。 ぜひ、続きが読みたいです。
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