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第98話 試金石、市長選1


 日も傾いてきたころ、いい気持ちになって白鳥麗子のお父さんと話をしていたら、白鳥麗子の兄正一郎は、若干28歳でこの屋敷のある町の隣の市の市長選に無所属の新人として立候補予定だそうで、今日も選挙の準備で大忙しという話だった。この屋敷からも応援に人を出しているという。


 現時点で立候補予定者4名中3番手の予想なので情勢はかなり厳しいらしい。白鳥家の総力を挙げて応援しているそうだが、そもそも白鳥家の関係者でその市に住んでいる者がそこまでいないそうだ。今回は初めての挑戦なので小手調べ的な意味合いもあるという。


 良い話を聞いた。俺にとっても一種の試金石だな。白鳥麗子をどこかの選挙に出して、様子を見ようと思っていたが、ちょうどいい。ここで俺が選挙に干渉して白鳥正一郎を市長にしてやろうじゃないか。


「お父さん、息子さんを市長にしたいだろ?」


「もちろんそうだども、今回は無理じゃろうと思ーちょー」


「俺が白鳥家にこうして縁ができた以上、必ず息子さんを市長にしてやる。

 任せてくれ」


「はあ?」


「選挙日は?」


「告示が明日で選挙は来週の日曜だ」


 時間も十分ある。これなら地方放送局を使わなくても市内を俺が回って軽い祝福を振りまくだけで片が付く。チョロイ話だ。


 俺は俄然やる気が出てしまったので、白鳥麗子に向かって、


「白鳥麗子、お前の兄さんを市長にするぞ!」


「えっ!?」


「俺たちの選挙のための予行演習のつもりだ。

 本チャンではテレビ局を使うつもりだが、たった一つの市ぐらいなら車で回るだけでいいだろう。

 明日から、俺がお前のお兄さんに投票するよう市民を祝福しながら選挙区内を回ってやる。

 白鳥麗子、お前の口からお父さんに明日から選挙の前日まで車と運ちゃんを用意するように言ってくれ」


「わ、分かりました」



 たまたまとはいえ、白鳥麗子の兄のおかげで良い実験ができそうだ。市長選挙の期日前投票は明日の告示から6日間。6日もあれば有権者が全員期日前投票をしてしまって、選挙日には誰も投票しなかったりしてな。ワッハッハ。


 待てよ。白鳥正一郎が市長になるのは確定事項だが、そうなると、白鳥麗子のお父さんに跡取りがいなくなるぞ。白鳥麗子は一応俺の大事なコマなので跡取りにされても困るからな。かといってスケルトン改造人造人間を跡取りだと言って、お父さんに渡すこともできないし。


 とはいえ、トルシェのヒールオールで白鳥麗子のお父さんは絶好調になったはずだから、もう30年、40年はぴんぴんしているだろう。そのころには白鳥正一郎も政界を引退してるかもしれないしな。まあ、将来のことは将来のこと。なるようになるだろう。



 その日の宴会は午後10時頃お開きとなり、トルシェとアズラン、それにメッシーナと涼音は恵比寿に戻っていった。俺と白鳥麗子は残って、俺は別室の座敷に布団を敷いてもらい、白鳥麗子は自分の部屋で休んだ。




 翌日。


 この日は市長選の告示日で届け出が認められた時点から各候補者は選挙戦に突入する。


 俺は朝食後一服して、用意された車に乗り込み、白鳥麗子のお兄さんが選挙戦を繰り広げる海沿いの○×市に向かった。白鳥麗子を連れていく必要はなかったが、俺についていきたいと言うので車に乗せている。


「運転手さん、市内で車の通れる道をくまなく回ってくれ。選挙まで1週間あるから無理する必要ないからな」


「はい。頑張ります!」


 運転手は何のために市内をくまなく移動するのか理解はできていないのだろうが、若旦那の選挙のために俺と白鳥麗子が協力してくれているのだろう、とは思っているのだろう。そういうことで車が通れるところは虱潰しに車を走らせてくれた。


 通りを歩く人間は確実に仕留めたはずだが、家の中にいる連中については正直どうなったのかは不明だ。



 その日の作戦を終了して俺たちは午後6時ごろ白鳥家に戻ったところ、恵比寿にやってきた白鳥家の番頭さんが迎えてくれた。聞けば番頭さんは昼頃白鳥家に戻ってきたそうだ。


 番頭さんは俺たちが昨日の午後4時に白鳥家にやってきていたことを知って魂消たまげていた。番頭さんがやってきたときには、白鳥家にいくことなど俺も考えていなかったので、一緒に連れていくことはできなかったのだが、そこは仕方がない。



 翌日も同じように車を走らせ、俺は白鳥正一郎が当選するよう車の中から目に付く範囲で祝福を与えていった。


 いちど本人に会って本物の祝福を授けて、俺の信者にしてしまう必要があるが、それはいつでもいいだろう。


 選挙戦3日目(火)


 その日、白鳥麗子の兄正一郎が演説中のところにいきあったので、演説が終わったところで白鳥麗子の紹介で本人と話をすることができた。


「妹がお世話になっているそうでありがとうございます」


「たまたまだ。詳細は妹さんに聞いてもらえばいいが、俺は今あんたの応援のため市内を車で走り回っている。

 当選は確実だから大船に乗った気持ちでいてくれ」


 そこで、白鳥麗子が俺をフォローして、


「兄さん、ダークンさんの言っていることは嘘じゃないから安心して」


 白鳥正一郎は、そうはいってもという顔をしている。俺の奇跡を見たわけでもない一般人だからそこは仕方がない。というわけで、きょとんとしている白鳥兄を一般ピープルから特別ピープル(おれのしんじゃ)に格上げしてやろう。


『祝福!』心の中で白鳥兄を祝福してやった。


 白鳥正一郎の体が一瞬淡く光った。ような気がした。


 その瞬間、白鳥兄は雷に打たれたかのごとく目を見開き、両手を合わせ俺を拝み始めた。


 ここで正式な作法である二礼二拍手一礼を教えるわけにもいかなかったので、軽く手を上げてやった。


「そういうことだ」


「あ、ありがとうございます」と白鳥兄が俺に深々と頭を下げたところで俺たちは自分たちの車に戻り市内祝福行脚に戻った。


 市内をくまなく車で回っていると、造り酒屋が何軒もあった。ちょっとだけ味見させてもらって、買えるだけ日本酒を買ってやった。最初の宴会の時、出された日本酒の銘柄を聞き忘れていたので丁度よかった。これでいいお土産ができた。市内をくまなく回るモチヴェーションがいっきに上昇した。



 選挙戦4日目(水)


 ○×市の市長選での期日前投票所が活況であると全国ニュースに流れたそうだ。この時点で有権者の40パーセントが期日前投票を済ませているということで話題になったようだ。この分だと、空前の投票率を記録するのではと、ニュースは締めくくったらしい。


 期日前投票の9割がたは白鳥正一郎票であることは間違いない。開票を待たなければ当選したとはならないが、このぶんだと明後日には有権者数の50パーセントを獲得するな。ちょっとやりすぎたかもしれない。だがそれがいい!



 選挙戦6日目(金)


 対立候補の選挙カーとすれ違った。対立候補本人はその車には乗っていなかったようだが、4人は車に乗っていた。その4人もおそらく白鳥麗子のお兄さんに投票するだろう。可哀そうなことに今回の選挙で当選確実と言われていた候補は現時点で白鳥候補に大きく水をあけられていると報道されている。たまたま、涼音のマンションに白鳥家の番頭が羊羹を届けただけで落選するとは運がない。



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