第96話 白鳥麗子3
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章分けしていませんが、ここから最終章になります。タイトルを付けるなら『神の国』。作者の妄想の世界でございます。
成都での作戦を終えて3カ月。スケルトン改造人造人間の各界への浸透は順調に進捗している。トルシェの悪魔素材の研究も完了し、うまそうな夜の梅も出来上がった。もちろん、瘴気サウナも完成している。瘴気サウナの手前には温泉風大浴場もある。
メッシーナは晴れてIEAを退職した。退職金はバイザーが言っていたとおり1千万ドルだった。税金は引かれないそうなので、まるまるメッシーナのイタリアにある口座に振り込まれているそうだ。忘れていたが、年が明けたら、俺も金を売った確定申告をしなけりゃいけなかったんだ。そのころになって思い出せばいいが、おそらくというか確実に忘れるが、督促状が来れば思い出すだろ。
「メッシーナ、お前これからどうする? お前の自由にしていいんだからな」
「ダークンさんがいいなら、ずっとここにいる」
「じゃあここにいろ」
ということでメッシーナは正式にうちの子になった。公にはされていないがバチカンを通して政治亡命的な扱いで日本に帰化した。
日本名は深水メッシーナ。苗字の深水はメッシーナの瞳が深緑だったので俺が付けてやった。自分の名まえの時これくらい気が利いていればよかったが後の祭り。今さら名前を変えるわけにもいかないし、今となってはちょっとだけだが愛着もある。
俺自身は神の国計画の進捗を見守るくらいしかすることがなかったので、ブラブラしていたら、ある日、白鳥家の番頭という男が涼音のマンションを訪ねてきた。
涼音が1階のオートロックを解除したので、じきに涼音の部屋に到着する。
涼音が拠点の大広間の隅でパソコンの画面を食い入るように見ていた白鳥麗子に、白鳥家の番頭という人物がやって来たと告げたら、白鳥麗子は、そこから一目散に逃げだして、メッシーナたちが訓練している陸上競技場に逃げていってしまった。
チャイムが鳴ったところで涼音が玄関で白鳥家の番頭を迎えた。
俺は玄関口での会話を涼音のリビングのソファーの上で花子に淹れてもらったお茶を飲みながら、越後の縮緬問屋の爺さんの再放送を見ながら聞くとはなしに聞いていた。
『お忙しいところ、お邪魔して申し訳ございません。
改めて、私、白鳥家の番頭を務めております、山根と申します。番頭というのは今風に言えば家令とでもお考えください。
それで、麗子お嬢さまがお宅に厄介になっているということを先日家の者が突き止めまして、こうしてご挨拶に伺いました』
『どうぞ、お上がりください』
『いえいえ、ここで結構でございます。
お嬢さまはお元気になさっておられますでしょうか?』
『もちろん元気にされていいます。呼んできましょう』
『そのお言葉だけで結構です。
これはつまらぬものですが、お納めください』
『わざわざありがとうございます』
『それでは失礼いたします』
そう言って、白鳥家の番頭という男は帰っていった。本当に挨拶だけでやって来たようだ。声の張りからいって男は初老くらいの感じがする。
リビングに戻ってきた涼音は両手で大きな平べったい箱を抱えていた。
箱の上には『御礼 白鳥』と墨書してあった。
「白鳥麗子の実家って、お金持ちだったようだな」
「そうですね。旧家って感じですね」
「花子、白鳥麗子を見つけて連れてきてくれ。メッシーナたちのいる陸上競技場にいると思う」
「はい。マイゴッデス」。花子は拠点の方に速足で向かった。
「その箱、なんだろうな?」
「かなり重いものが入っています。開けてみましょう」
包装をとって箱の蓋を開けると中から竹皮に包んだ虎〇の羊羹が4棹ずつ2段になって入っていた。羊羹は8棹とも夜の梅だった。分かってるなー。実にいいセンスをしている。トルシェの夜の梅も竹皮に包むと高級感が出るかもな。
俺たちが頂き物を見ていたら、花子に拘束された白鳥麗子がやって来た。
「白鳥麗子。お前のところの番頭さんがこれを持って来てくれたぞ。
花子。ちょっと切り分けてみんなに出してくれ。お茶も頼むぞ」
花子に箱ごと渡して、切り分けてもらうことにした。
「それで、お嬢さまとは一体どこの誰なんだ? そこに座って説明してくれ」と、白鳥麗子を問い詰めた。
俺の向かいのソファーに座った白鳥麗子が、話し始めた。
「私の実家、中国地方で山林をたくさん持ってる関係でそこそこお金持ちなんです」
「山をか?」
「はい。父が昔話していたのは1万ヘクタールほど。国内の家具用高級木材はほとんどうちの山の物だって話でした」
「その父の娘が何で赤羽の安アパートで一人暮らしをしてたんだ?」
「田舎暮らしが嫌で都会にあこがれて、高校を卒業してすぐ家出同然で東京に出た結果です」
「白鳥麗子がお嬢さんであることは分かった。お前が家出した後もきっとお前の家ではお前を見守ってたんじゃないか?」
「そうかもしれません」
「いちど家に帰って、親に頭を下げたらどうだ? このままだと親不孝者で終わるぞ」
「それはちょっと」
「白鳥麗子、お前、兄弟はいるのか?」
「兄がいるので家のことは間違いないと思います」
「家に帰れば縁談を勧められるとかあるのか?」
「あるかもしれません」
「俺がついていってやると言っても嫌か?」
「ダークンさんにそんな迷惑かけられません」
「そう言う白鳥麗子さんは今現在絶賛居候中だよな?」
「忘れてしまいたい事実ですが、否定はしません」
「じゃあいいじゃないか、いこうぜ。孝行をしたいときには親はなし、とも言うぞ。お前の家は中国地方のどのあたりだ?」
「山陰です」
「ふーん。ところで、白鳥麗子の実家は海から近いのか?」
「山の中というほどじゃないので、海もそんなに遠くはありません」
「よーし、決まった。今日の晩飯は白鳥麗子の実家だ!
俺たちがお邪魔するから歓待するよう電話しておけ。あんまり早いと十分準備できないだろうから、16時スタートってことでよろしく。俺は山陰の魚介類を所望する」
「えっ!? 俺たちってことは全員?」
「当たり前だろ。花子とフラックスは勘定に入れなくてもいいからな」
「分かりました。6人くらいで話しておきます」
「今日の昼めしは軽くで済ませるからな」
白鳥麗子がしぶしぶ実家に電話していた。電話口の白鳥麗子の顔は見ものだったが、あまり茶化すのもかわいそうだったので、俺と涼音はテレビに目を向けた。テレビの中では、縮緬問屋の爺さんが入浴中のお銀を覗き見ていた。いつも通りの展開にほっこりしていたら、白鳥麗子の電話も終わったようだ。
「ダークンさん、16時に家に帰るって言っちゃったけど、どうやって向うにいくんですか?」と、白鳥麗子。
「トルシェに頼んで、ここと白鳥麗子の実家をつなぐだけだ。この前成都に行っただろ? あれと同じだ。ということだからトルシェにお前の実家がどこなのか教えておいてくれよ」
「分かりました」




