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第93話 大魔法『物質変換』2


 いきなり俺たち3人が扉から現れたわけだが、メッシーナたちも見慣れているので特に驚くようなこともなく俺たちを迎えてくれた。


「女神さま、もう悪魔を退治されたのですか?」と、バイザー。


「いや、まだだ。

 さっきトルシェが大魔法を仕掛けたんだがそうとう威力が大きいそうでとりあえずこっちに退避してきた。魔法が発動するまであと2分くらいかな。

 ところでトルシェ、さっきのカッコいい名前の魔法はどんな魔法なんだ?」


「『物質転換』は対象の元素を任意の元素に変えてしまう魔法です」


「敵を水素とか酸素に変えてしまえば手も足も出ないものな。

 だけどその程度なら大したことないだろ? 何で俺たちが退避しなけりゃいけないんだ?」


「水素とか酸素に変えることもできたけど、今回は魔法が発動すると、あの火山全部、ウラン235に変わるようにしちゃいました。もちろん臨界を越えた質量だから、いっきにいきますよー。

 一度くらい実験ためしたかったけど、さすがに地球上じゃできなかったので、いい機会でした」


「えーとそれって、原子爆弾ってことか?」


「そういういい方もあります。

 そろそろですよー」


「そこの扉は大丈夫なのか?」


「向うの世界がどうなるかは分かんないけど、空間自体は隔たってますから、問題ありません」


「向こうの世界は惑星ほしなのかな?」


「さあ、どうなんでしょう。あっ、時間ですね」


 確かに目の前の扉は微動だにしなかった。


 しかし、惑星ほしだったらヒビくらいじゃじゃすまないだろう。半分くらい宇宙に吹き飛んで、壊れてるんじゃないか?


「そこの扉を開けると放射線が吹き荒れるってことはないのか?」


「あの火山の質量全部が核分裂したわけだから、放射線の前に空気というか大気が吹き飛んで無くなってるかも?」


「それじゃあ、扉を開けるとこっちの空気がすごい勢いで流れ出てしまうぞ。かなりマズいな」


「そうですね。やりすぎだったかな?」


「ヤッチマッタものは仕方ない。しかしどうする? 戦果確認は必要だぞ」


「向こうが惑星ほしだったとしても、あのくらいじゃ星そのものが吹っ飛んだとは思えないから、しばらく放っておいて大気が混ざるのを待ちましょう」


「それもそうだな」


 俺とトルシェが物騒な話をしていたら、バイザーが、


「女神さま、核分裂とか、星を吹き飛ばしたかもしれないとか聞こえてきたんですが」


「ああ、その通りだ。ちょっと大きな核爆発が向こうで起こったみたいだ。向うが落ち着くのを待つことにしたから、階段に腰を下ろして休憩しよう。

 薄目のワインならメッシーナも飲めるだろ?

 1、2時間ここで休憩だ」


 薄めのワインは俺のキューブには入っていないのでトルシェのキューブ頼みだ。金目の物なら何でも見つけ次第キューブに回収してしまうトルシェのことだからワインもそれなりの物が揃っているだろう。


 そういうことで、トルシェにワインを何本か提供させ、階段の幅の関係で、上下2列で階段に腰を下ろした俺たちは酒盛りを始めた。肴は俺が適当に見繕って大皿に出してやった。


 ワインを飲みながらアズランが、


「ねえ、トルシェ、そこの扉って、こっちの世界とあっちの世界を繋げるために向うにいる悪魔が作った物だよね」


「そうだね」


「もし向こうにいる悪魔が、死んでたらどうなるのかな?」


「扉はもう向こうの世界につながってないと思う」


「じゃあ、ちょっとだけ覗いてみたらどうだろう。

 ダークンさん。コロにいって、針孔くらいの孔をあけてそこから覗いたらどうでしょう?」


「それはいいな。その孔から少しくらい放射能が漏れても知れてるしな。

 念のためメッシーナとバイザーは1階まで退避させておけば大丈夫だろう。

 そういうことだから、メッシーナとバイザーは1階まで階段を上っていてくれ」


「「はい」」


 二人が上に上ったところで、コロが目の前の扉に針孔を空けた。


 空気がその孔に向かって流れ出ている感じはない。


 針孔を片目で覗くと、その先には最初見た時と同じ駐車場が広がっていた。


「なんだかわからないが、また元の駐車場に戻ってる」


 悪魔の親玉かなにかを斃した可能性もあるが今のところは未確認だ。


「おーい、メッシーナとバイザー、下りてこーい。大丈夫だったぞー」


 二人を呼んだのだが、二人の向う、ずっと上の階の方からばたばたと大勢の人が階段を駆け下りる音がし始めた。


「なんか上の方から湧いて出てきたぞ。

 ちょっと待ってろ、今そっちにいくから」


 俺たちは急いでメッシーナたちのいる1階の踊り場まで駆け上がった。


 メッシーナはスティンガーを、バイザーは例のメイスを構えている。


 上からかけ下りてくるのは人間のようだ。タダの人間なのか、なにがしかの能力があるのか分からないが、ここはメッシーナとバイザーに任せて大丈夫だろう。俺たちは高みの見物という名のバックアップ体制に入った。相手が飛び道具を持っているとメッシーナたちだと分が悪いので、コロには鉄砲の弾が二人に飛んで来たら食べてしまうよう指示しておいた。


「俺たちがバックアップするから、メッシーナとバイザーでやってくる連中を斃してみろ!」


「わかった」「はい」


 本当は階段の上から下を眺めていたかったが、あいにくわれわれの方が敵よりも下なので、無理な態勢で下から見上げることになる。首が疲れそうだ。


 そうこうするうちに、上から雪崩のように駆け下りてくる連中とメッシーナたちとの戦闘が始まった。バイザーが大ぶりでメイスを振り回すとそれだけで7、8人敵が吹き飛んでしまう。


 メッシーナはバイザーのスキを突こうとする敵に対してスティンガーを突き出していく。どう見ても敵に当たりそうもないメッシーナの突きだが、勝手に敵が突き刺さってくる。


 二人によって斃された連中が俺たちの方に転がってくるし、中にはそのまま地下3階まで落っこちる者もいる。


 そういった連中は邪魔くさいのでコロに吸収させて俺たちの周りは常に清潔に保ってやった。





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