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第90話 ご挨拶


 俺はメッシーナとバイザーが地面に衝突しても助かるよう打てる手を打って、地面への衝突を待ったのだが、落下は続いているものの、いつまで経っても地面に到達しない。


 すでに、肉壁は綺麗サッパリなくなって、その先にはなんだかわからない灰色の空間が足元を含め全周に広がっていた。


「まさか?

 お前たち、ちょっと俺の手を離してくれるか?」


 少し前まで無重力状態だったが今は何だか重力を感じているような気もする。


 俺の手を取って衝撃に備えていた3人が手を離したところで、俺はブヨブヨのコロの背中を歩いて、そこから飛び下りた。


 跳び下りた先は灰色の空間なのだが、ちゃんと足がつく。


「おーい、みんな降りてこい。地面は見えないが足はつくぞ」


 恐る恐る3人がコロの背中から飛び降りて俺の隣に立った。


「コロはもういいからベルトに戻ってくれ。

 メッシーナには念のためスティンガーを渡しておく」


 すぐにコロは小さくなってダークサンダーのベルトに擬態した。メッシーナにはキューブから取り出したスティンガーを渡しておいた。


「ここは?」とバイザー。バイザーはちゃんと片手に例のメイスを持っている。今現在手ぶらなのは俺とフラックスだ。


「相変わらず悪魔の体内に囚われているのかもしれないし、戦隊モノのバトルフィールド的な謎空間に放り込まれた可能性もある」


「戦隊モノ?」と、日本文化に疎いバイザーが聞いてきた。『戦隊』は本筋とは関係ないので簡単に、


「いや、そこは気にしなくていい。戦隊モノのバトルフィールドというのは邪魔が入らず戦闘ができる便利空間のことだ。

 そのうち敵の動きがあるだろうから、しばらくここで様子を見てみよう。

 メッシーナとバイザーはなにか飲むか?」


「わたしはいい」と、メッシーナ。


濃い(・・)飲み物ならなんでもいいです」と、バイザー。


 俺の収納キューブには運の良いことに濃い飲み物(さけ)しか入っていないので、米の酒の大樽を1つとジョッキを2つ取り出した。


「つまみは何にするかな? 大皿で何かあったはず」


 そんなこんなで、簡易飲み会を始めてしまった。地面が無いのでキューブから取り出した物を地面らしき場所において酒盛りである。こういうのも新鮮ではある。


 フラックスに大樽を抱えさせてジョッキに酒を注がせる。見ようによっては虐待だが、大樽程度の重さでフラックスがそれこそフラつくことはないので何も問題はない。


 メッシーナも大皿の串焼きなどを手にして口に運んでいる。


 小1時間ほどそうやって小宴会を妙な場所というか空間で執り行っていたら、向こうの方から誰かが俺たちの方に向かってきているようだ。俺たち以外誰もいなければ何もない空間で向こうの方というのはかなり漠然としているが、それ以外に言いようがないのも事実だ。


 ここからだとはっきりわからないが、姿形は人型にも見える。ということは、サティアスのような悪魔の可能性もある。悪魔だとすると、少なくともサティアスよりはレベルの高い悪魔なのだろう。


 どうせこの謎空間を作った大元のなにかだろうから、もったいつけずに目の前に現れればいいものを。


 ということなので、そいつに向かって俺が「俺たちに用があるなら、キリキリ走ってこい!」と大声で呼んだところ、ちゃんと、俺の声が聞こえたようで、いきなり俺達の前にテレポートか何かで現れた。こいつの能力でテレポートがあるなら厄介だろうが、おそらく自分の作り出した謎空間限定のショボイ演出なのだろう。


 俺達の前に現れたのは、ドレスエプロンを着ているものの、呪いの市松人形のように黒髪をおかっぱにした少女だった。見た目が少女だと俺が手加減するとでも思ったのだろうが、俺はそんなやわな女神ではない。捻り潰す気になれば相手が何であろうが容赦しない。


「それで、お前がここの親玉なのか?」


 俺はその場で立ち上がり、目の前で突っ立っている少女に向かって問いかけた。残りの3人も立ち上がった。


「……」


 相手から返事がない。俺の言葉が通じない? さっき俺の声に反応してテレポートみたいに目の前に現れたと思ったが偶然だったのか?


 雰囲気的にこいつはどうも俺たちをこの場所に閉じ込めた大元ではないようだ。じゃあ、なんでこんなところにこいつがいるのか推理すると、答えは一つ!


「コロ、こいつを包め!」


 俺のベルトに擬態していたコロから触手が市松人形に伸び、その触手の先が大きくなって広がっていき、コロの本体が移動し終わったところで市松人形がすっぽりとコロで包まれた。


 その直後。


 ボンッ! と鈍い音がした。


 俺の予想通り市松人形がコロの中で爆発した音だ。


 コロに食べさせれば簡単だったのだが、俺の推理が当たっているか知りたくてコロで包んでみたのだ。余裕のなせる技だな。


「今のは爆弾だったわけだが、妙に悠長だな。たかだか爆弾1発で俺たちがどうなるわけでもないし、何がしたかったんだ?」


「私たちを爆殺しようとしていたのでは?」


「いや、多少の知恵があれば、いちおう最上位悪魔を簡単に斃した俺たちが爆弾なんぞでどうこうできるわけがないと想像できるだろ」


「では、単なる挨拶ですか?」


「挨拶みたいなものかもな」


「とすると、次に起こるのは?」


「俺たちは、招かれたかどうかはわからないが、一応敵の領分に居るわけだから、次は本格的な供応じゃないか」


「本格的供応?」


「ほらな」


 俺たちは一瞬のうちに無数の異形のバケモノたちに取り囲まれていた。


「コロ、やれ!」




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