第89話 悪魔の肉体?
出口を探して坂道を下ること約1時間。我が隊員たちから不平不満が漏れることはなかったが、そろそろ限界だろう。
「このまま歩いていても、出口は見つからないかも知れない。
気になることがある。少し待っていてくれ。
コロ、目の前の壁に穴を開けてくれ。そうだなー。直径10センチで、まずは10メートル。方向は、上に向かって角度30度で」
ここが実際地下なのかどうか、ボーリングして地質調査だ。何か手がかりがつかめるかもしれない。
コロから触手が伸びて斜面の壁に穴が空いた。通常の坑内からの上向き調査ボーリングでは、ボーリング用のビット付きパイプを回転させて穴を掘っていき、パイプ内と穴の間隙に泥水を循環させてクリコなどを排出させつつ、ビットで円柱状に切り取られて泥水とともに自然排出された岩石を分析するのだが、コロのボーリング調査では岩石サンプルは出ないのでそういった分析はできない。
そこは目をつむりつつ、出来上がった穴に俺が目をよーく開いて中を覗くことで地質調査する。
穴の中を覗くと、穴の表面は赤く、なんだかうねっているように見える。とても岩とは思えない。
なんじゃこりゃ?
「バイザー、お前も穴の中を覗いてみろ」
バイザーが俺に代わって穴の中を覗いた。
「なんだかうごめいています」
「だろ? 思った通りだ」
当然俺は何も考えてはいなかったが、これも言ったもの勝ちだ。
「女神さま、どういうことでしょう?」
俺はそこで思いついたまま、
「俺たちのいるこの道は悪魔の体内にちがいない。俺たちがこの中で弱り果てたところを消化するつもりなんだ」
「どうすれば、ここから脱出できるのでしょうか?」
「俺たちが敵の体内にいるということは、俺たちから敵は逃げ隠れできないということだ」
「なるほど」
「ということなので、コロに全部食べさせる。
その前にこいつが本当に悪魔かどうか味見してみよう」
俺はエクスキューショナーを引き抜いて、コロの作った穴から少しだけ肉片のようなものをそぎ取った。コロの作った穴はゆっくりとではあるがたしかに閉じかけている。
俺はそぎ取った肉片?を口に入れ一噛みして、吐き出した。
エグい、そして、まずい! これで悪魔決定だ。以前悪魔を解剖したときに得られた知見がまさかこんなところで生かされるとは、神ならぬ身ではなく神さまそのものの俺でも予見できなかった。
「悪魔だとわかった以上、容赦する必要はない。
コロ、周囲の壁を全部食べておしまいなさい!」
ベルトに擬態したコロから無数の触手が周囲に放たれ、俺たちの周囲はすごいスピードでコロに吸収されていった。コロに吸収された後の表面は先程の穴の内側同様赤くうねうねとうごめいている。
ここにいるのはそういったグロに耐性のある者しかいないのでどうってことはないが、味もエグいが絵面もエグい。
どんどんコロが悪魔を吸収していき、空洞がどんどん広がっていく。
俺たちの足元だけはコロが残してくれているので、空洞の中に落っこちてはいないが、足元がうねり始めた。
「みんな俺の体に掴まれ!
コロは触手を伸ばして、俺たちが落っこちないよう支えてくれ」
三人がそれぞれ俺の体に掴まり、コロの新たな触手が四方八方に伸ばされたことで、足元は揺れるが落っこちることなくそこに留まることができた。
一方コロの触手で悪魔の内部らしき組織が吸収されて空洞はどんどん大きくなっていく。すでに俺たちの周囲数百メートルが赤い壁に囲まれた空洞になっている。
「こいつはどれほど大きいんだ?」と俺が口にしたところで、急に周囲の赤い壁がシャボン玉のように弾けて消えてしまった。
俺たちの立っていた道路も消えてしまった。コロの触手で掴むものがなくなったことで俺たちは下に向かって落っこちていった。
俺とフラックスはどんな高さから地面に落っこちても「痛い」くらいで済むが、メッシーナは即死するだろうし、いくら身体が異常に頑丈なバイザーとておそらく即死する。
なので、俺はコロに向かって、
「コロ、俺たちの下で大きくなってクッション代わりになってくれ」
そう言ったとたん、ベルトに擬態していたコロが足元に移動して、どんどん大きくなっていった。
「俺とフラックスはどうでもいいが、落っこちたときメッシーナとバイザーになるべく衝撃がかからないように支えてくれ」
そう言って、俺は地面への衝突を待った。




